Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

Village Design 40. 麗江:玉竜雪山(結)

2007年12月16日 | field work
 夕刻遅くに私達は、ようやく麗江に戻った。車に乗っているだけでも10時間近くあり、中甸はつかの間の滞在だったが、多くのことを体験した大変長い一日だった。翌日麗江は、晴天になった。標高5596mの玉竜雪山の頂上部付近を辛うじて眺めることができた。写真中央から下に流れ落ちているのは、氷河である。
 
 このVillage Designシリーズでは、次の3視点から執筆してきた。
1.私達の暮らし方を視座とする居住コミュニティ・デザインにおいて、必要となってくる基本的考え方を見いだすこと。
 現代社会における私達の暮らし方や住まい方といった規範とて、まだ半世紀の経験でしかない。これと呼応する浅い歴史しかない現代建築にそうした規範を求めても、意味はないといえる。例えば、これまで見てきた民居を、現代建築では バナキュラーといった建築言語で捉えているが、そうした考え方自体ファッションでしかなく、環境における関係性を語ることはできない。
 民居を訪ねれば、どんな様式をみても、1世紀以上経過している。民居は、長い時間の中で、地域固有の気象や生業と暮らし方との関係性の中で、合理的な様式を形成してきた。そのことは和辻哲夫が論じた(注1)、風土論に記されている。その土地固有の風土を了解してきた結果として、人間の暮らしや民居様式が成立してきたからこそ、地域の環境条件に応じた多様な民居様式が発生してきたのである。そうした多様性を形成している要因は、風土的関係性に他ならない。現代建築が忘れてきた関係性の概念、それが風土性である。
2.これからの民居様式への知見とすること。
 既にニューアーバニズムと呼ばれる考え方で、アメリカでは数多くの新しい居住コミュニティが実現されている。他方日本では、アメリカの植民地様式を模した住宅が、プレハブメーカー等の商品で数多く見られる。ニューアーバニズムという本来の考え方は、持続可能なコンパクトなコミュニティを環境デザインの考え方と手法とによって実現してゆくことである。従って日本の商品化住宅にみられる形態模写とは大きく乖離しているのである。
 ニューアーバニズムが用いているアメリカの植民地様式とは、まさにアメリカ開拓時代の風土に適合した民居様式なのである。日本では、地域固有の風土に適合した民居様式があるだはずだ。比較的建築材料的類似性が高く、様式伝播の源である中国にその規範を探りながら、様式喪失に陥っている日本の居住コミュニティ・デザイン再構築の手がかかりになればと思われる。
3.中国雲南省を歩きながら、日本の将来の有り様を外側からあぶり出すこと。
 経済統計(注2)によれば、日本の経済成長率は、(2001)0.39%、(2002) 0.14%、(2003) 2.12%、(2004) 2.71%、他方中国では、 (2001)7.21% 、(2002)8.91%、(2003)10.2%、(2004)9.9%、となり中国の経済成長が顕著である。中国を歩いているときに、肌で感じられたことは、経済をはじめとする中国の国力が、数年以内には日本を追い越し、世界を主導する国家の一つになるという確信である。
 現在日本の政治や制度、経済、情報、教育、デザインや建築を含む文化、そのどれをとっても世界からは遅れに遅れ、構造改革も遅きに失した。日本が、将来において世界の主導的国家と同一歩調がとれる要素を、もはや見いだすことはできない。私達のようにデザインの立場からみても、数年後の日本の姿は、世界のあらゆる面での後進国になるだろう。
 
 以上 一応のまとめを提示し、ひとまずこのシリーズを終了する。 湖西から始まったVillage Designシリーズも40回となった。まだ多くの学ぶべき優れたビレッジがあるが、またの機会としたい。
 私達は、この後広州に向かった。このシリーズでは、私達がベースキャンプとした昆明、大里、麗江、広州といった都市については省略した。これもまたの機会としたい。
 
注1.和辻哲夫「風土-人間学的考察」,岩波文庫,1979.(再版)
注2.総務省統計局「世界の統計」,2007.
 
Canon EOS3.F3.5-5.6/EF28-135mm.コダクロームⅡ.
Nikon CoolScan3.
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