デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

モカンボ・セッション

2006-06-18 09:13:13 | Weblog
 「そして、風が走りぬけて行った」、本のタイトルなのだが、これだけでは何の本なのか分からない。サブタイトルに「天才ジャズピアニスト守安祥太郎の生涯」とある。読まずにはいられない一冊だ。天才と騒がれ、突然の死によって謎に包まれたピアニストの生涯が丁寧に描かれていて、作者の植田紗加栄さんには頭が下がる。静岡のジャズを愛する古書店主から譲り受けた本で、読み終えた後も書棚に入ることもなく今も机にある。

 その守安さんが残した唯一の録音が、「幻のモカンボ・セッション’54」と題され、ポリドールから発売されたのは75年のこと。ロックウェル・レーベルの EP で僅かに知られていた貴重な音源の全貌が陽の目をみた。54年というと日本のモダンジャズ黎明期で、只管チャーリー・パーカーやバド・パウエルのレコードを聴き、採譜し、コピーをするだけだったと聞いていたが、守安さんのピアノは違っている。力強いオリジナルのフレーズ、サイドメンが付いていけないスピード、溢れるスウィング感に圧倒された。

 ショパンの難曲を弾き熟していた慶応時代や、サンバ・クマーナを後手で弾きまくるという見世物的な超絶技巧で暮らしを立てていたこと等、興味深い話もある。若き日の渡辺貞夫さんや、秋吉敏子さん等の憧れの的であり、守安さんがいなければ今の彼らはいなかったかもしれない。歴史に「れば」「たら」は禁句なのだが、生きていれば日本のジャズ界も大きく変わっていただろうし、アメリカに渡っていたら、パウエルよりも上を行ったかもしれないとも思う。日本ジャズ界に風穴を開けた人だった。

 6月ともなれば北海道にも爽やかな風が吹く。一年で一番好い季節で、エリック・ドルフィー、エロール・ガーナー、シェリー・マン、タル・ファーロー、それにフランソワーズ・サガン、ポール・ゴーギャン、ジャン=ポール・サルトル、更に太宰治、6月生まれの人は皆、感性豊かだ。ちなみに明日19日は小生の誕生日でもある。これが言いたかった。(笑)
コメント (17)
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