デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

霧のロンドン・ブリッジ

2006-06-04 07:42:40 | Weblog
 渡辺プロダクションの創設者、渡辺晋さんの半生を描いた「ザ・ヒットパレード」というテレビドラマが放映された。テレビが誕生したころの物語で、渡辺晋さんの志の高さに甚く感動を覚えた。ジャズの衰退と入れ替わるようなロカビリーの隆盛、当時の人気番組「ザ・ヒットパレード」の舞台裏等、興味は尽きない。外国のヒット曲に日本語の歌詞を付けて、流行らせたのは渡辺晋さんの発案のようだ。外国のポップスが身近になり日本人の歌の志向が変わってきた時代の一齣だ。

 「渡辺プロオールスター20世紀ポピュラー音楽大全集」という4枚組CDは、ドラマの最後でも演奏していた渡辺晋とシックス・ジョーンズのバンド・テーマ曲でもある「セプテンバー・イン・ザ・レイン」で始る。曲目を見ると50年から60年代のヒット曲のカヴァーがずらりと並んでいて、その中に伊東ゆかりさんの「霧のロンドン・ブリッジ」があった。「小指の思い出」ほどの艶っぽさはないが、声には張りがある。オリジナルは数々のミリオン・セラーを持つジョー・スタッフォードで、彼女の代表曲でもある。コーラス・グループ「パイド・パイパース」の出身で、トミー・ドーシー楽団の専属歌手だった時代もあった。

 ジョー・スタッフォードは、どちらかというとポップス畑で、ジャズファンに注目されないが、マニアが探し回ったレコードに「ジョー+ジャズ」がある。ジョニー・ホッジス、ベン・ウエブスター、ハリー・カーネイ等のエリントニアンをバックに、スタンダードを気品のある美しい声で唄っている。オープニングはエリントン・ナンバーの「ジャスト・スクィーズ・ミー」で、ジョーとホッジスのソロの絡みは素晴らしい。ヘレン・メリルで有名な「ユード・ビー・ソー・ナイス~」では、ウエブスターのソロも入り白眉と言える。一流のポピュラー歌手は、一流のジャズ歌手でもあった。それにバックも一流なら文句の付けようがない。

 79年に国内盤が再発されたものの、それまではジョー・スタッフォードが CBS から原盤を引き上げていたため再発は望めないという幻の一枚だった。写真は国内盤が出る数年前に薄い財布と相談しながら思い切って購入したもので、ジャケットは少々スレがあるもののディスクは、大きな傷もなく良好なオリジナル・モノラル盤。今なら新品 CD 数枚買える値で、清水の舞台、いや霧のロンドン・ブリッジから飛び降りるくらい勇気が必要だった。
コメント (12)
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