デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ダントツのベイカー

2007-05-13 08:36:31 | Weblog
 逆風の中、対立候補を大きく引き離してダントツの投票数で3選を果たした東京都知事、石原慎太郎氏の小説に「ファンキー・ジャンプ」がある。40年以上前の作品で音楽を文章で表現しようと試みたジャズ小説だ。最近はクラシックがいいと言っている石原氏だが、当時はチャーリー・パーカーが好きだったようでジャズと麻薬の関係にも触れていた。多趣味でジャズばかりでなくテニス、スキューバダイビング、そしてヨットレースと幅広い。

 ジャズと麻薬とヨットと言えばこれしかない。遂に登場したのはチェット・ベイカー、そしてクルー。ウィリアム・クラクストンのジャケット写真は凝りすぎの感もあるが、ベイカーなら絵になる。56年の作品でベイカーがウエスト・コースト・ジャズの典型的なイメージを覆したハードバップ作品という仕上がりで興味を引く。なるほど「モーニン」で知られるファンキーなボビー・ティモンズがピアノだ。とはいってもティモンズがジャズ・メッセンジャーズに参加する前のセッションで、まさにファンキーという蕾が開こうとしている時期であろう。

 ジャズ界のジェームズ・ディーンとまで言われたベイカーの容姿は羨ましい限りだが、一方、暗の部分は壮絶の一言に尽きる。この時代のジャズメン誰でもがそうであったようにベイカーもまた麻薬に侵されていた。ジェリー・マリガンがヨーロッパ・ツアーに行くときに、金にうるさいベイカーを外しボブ・ブルックマイヤーを連れて行ったエピソードも残されている。結局マフィアに麻薬の金を払えなっかたベイカーは、麻酔なしでトランペッターの命ともいえる歯を抜かれたそうだ。麻薬の影響があったにせよ妖しい魅力のある歌と比類なき美しいトランペットはダントツであった。

 ダントツという言葉は石原氏が広めたもので、63年の「文藝春秋」に寄せたヨットレース体験記に、「スタートからダントツ(断然トップ)で出た」とある。カッコ内に意味を注記しているのはそれが新語であることに配慮したもであろう。ヨットレースのように追い風に乗ったダントツの政治手腕を発揮して頂きたいものだ。
コメント (38)
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