デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

「なんくるないさぁ」とペトルチアーニは笑った

2007-07-22 07:45:09 | Weblog
 書店で「なんくるないさぁ」という聞きなれないタイトルを目にした。10歳のときに小児ガンを宣告された吉野やよいさんが書いた本で、闘病記録を綴っている。「なんくるない」とは沖縄の方言で、「なんとかなる」の意らしく北海道では聞くことがない。少しばかり時間があったので読み出したところ目頭が熱くなってきたので購入した。黄昏時に大の大人が書店で涙するのは絵にならない。

 難病を乗り越えたピアニストにミシェル・ペトルチアーニがいる。ガラスの骨病と呼ばれる奇病のため身長は1メートルほどしかなかったが、フランス最高のジャズピアニストといっても過言ではない。フランス人としては初めて名門ジャズレーベルのブルーノート・レコードと契約したことで広く知られ、その生命力溢れた演奏は素晴らしいの一語に尽きる。魂が指先に宿っているとでもいうのだろうか、鍵盤に命を吹き込み、ピアノ全体がペトルチアーニになるような錯覚さえ覚える。

 「プロムナード・ウィズ・デューク」と題されたアルバムはタイトルからもわかるようにデューク・エリントンに捧げたもので、ブルーノートに残した最後の作品だ。クラシックからジャズに転向するきっかけになったエリントンに取り組むだけに凄まじい気魄でピアノに向かっている。冒頭の「キャラヴァン」から「Cジャム・ブルース」までエリントンの代表作と、自作曲を鏤めた構成はソロピアノながら絢爛豪華な絵巻物をみるようだ。ソロピアノの名演というとビル・エヴァンスやセロニアス・モンクがあるが、それに匹敵するピアノ美学といえよう。

 98年のライブ映像の最後で、スティ-ヴ・ガッドとアンソニー・ジャクソンの中央にペトルチアーニが立つ姿が見られる。体は大きくないが障害を克服したその顔は自信に溢れ、一際大きくみえた。小児ガンに打ち克った吉野やよいさんは今、早稲田大学に通っている。「なんくるないさぁ」と目標を持ったふたりの笑顔が眩しい。
コメント (27)
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