デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ソウル駅からB列車に乗ったハンク・モブレイ

2008-02-03 08:05:16 | Weblog
 「B列車で行こう」という本を監修した細越麟太郎さんは、前書きでBはベストのBではなくて、ベターのBであるという前提で映画や音楽、探偵小説のB級作品の魅力を纏めている。先週コメントをお寄せいただいた三具保夫さんも、「A級ヴォーカリストたちが歌ったB級ソング」と題して寄稿されていた。一流と二流というのと、AとBというのはニュアンスが違うという観点から、ときにAよりも深く、ある意味魅惑的でもある愛すべきB級作品群を浮き彫りにしていて、B級カルチャーを密かに愉しむ向きにはまたとないガイドブックである。

 ジャズメンにもB級で括られるプレイヤーがいて、ハンク・モブレイは、その代表格といってもいい。B級と言われるのはマイルス・コンボに在籍したことによるもので、前任はコルトレーン、後任はジョージ・コールマンを挟んでショーターという謂わばジャズの天才の間に位置するものだから比較論的にこの評価になるのだろう。初代ジャズメッセンジャーズの初代テナーマンでありながら、後世に名を残す傑作「サンジェルマン・ライブ」はベニー・ゴルソンが吹いている。後任がこれまたショーターで、一流でありながらB級の冠を付けられた同情すべきプレイヤーなのであった。

 一流のモブレイは当然ながらリーダー作を多く残していて、その中でも「ソウル・ステーション」は、ワンホーンでA級のプレイをたっぷり楽しめる代表作として迷わず挙げるアルバムである。ウイントン・ケリー、ポール・チェンバースにアート・ブレイキーというジャズを演奏するために生まれきたような強力なリズム・セクションがバックとくれば燃えずにはいられない。ミディアムテンポで一気に吹き上げるアーヴィン・バーリンの「リメンバー」という美しい曲をアルバムの最初に持ってくるあたりは、アイデアを膨らませた自信の表れでもある。ときにたどたどしく、もどかしくもある不器用なフレーズではあるが、知らず知らずうちに聴き手を引きずり込むモブレイ節は間違いなくA級であろう。

 A列車はB列車よりも快適なのだろうが、時と場合によっては特急列車より景色を楽しめる鈍行列車のほうが面白いものだ。先を急がず自分のペースを守ることは、たとえB級であってもA級のセンスを磨くことに繋がる。モブレイがソウル・ステーションから迷わず乗り込んだB列車にのんびり揺られる旅も悪くない。
コメント (26)
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