デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ボビー・ハッチャーソンが聴いた子守唄

2009-06-21 08:29:04 | Weblog
 「ドウキョしているドウキョウのヴァイブ叩きがいるんだがドウ、キョウあたり聴いてみない」ドウキョだか、ドウキョウだかよく呂律が回っていない二日酔いのデクスター・コーリングである。寝起きの髪がライオンのように逆立ったアルフレッドもデックスの推薦なら聴かずにはいられない。ロスでカーティス・アミーやチャールス・ロイドのバンドで活躍しているのを聞いてはいたが、音を聴くのは初めてのことだ。

 ビバップをモダンにしたスタイルはミルト・ジャクソンの影響があるものの、斬新なフレーズや間の感覚は今のブルーノート路線に乗ると思ったライオンは、早速レコーディングに取りかかる。まず、ジャッキー・マクリーンの「ワン・ステップ・ビヨンド」、次いでグラント・グリーン、アンドリュー・ヒル、エリック・ドルフィーの「アウト・トゥ・ランチ」、サイドで徐々に知名度をアップさせるのはライオンがニュースターを売り出す作戦であった。ブルーノートで録音を開始してから65年に初リーダー作の「ダイアローグ」を吹き込むまで僅か2年、デイブ・パイクにヴィブラフォンの手ほどきを受けてから6年で、ライネル・ハンプトンやジャクソンとは違うヴァイブ奏法でジャズ界に新風を送るスターが誕生した。

 多くのリーダー作のなかで「ハプニングス」は、ボビー・ハッチャーソンの代表作であるばかりか、ハービー・ハンコックの「処女航海」と並ぶブルーノート新主流派の傑作でもある。ハンコック、ボブ・クランショウ、ジョー・チェンバースの基本的なリズム・セクションだけをバックにしているので、ヴァイブ特有の硬質でクールな音が鮮明になり、ハッチャーソンの個性的なスタイルが際立つ。ハンコックに敬意を表した「処女航海」以外は全曲オリジナルで、コード・ワークにポイントを置いた従来のヴァイブとは違うハーモニーが展開され、そのサウンドはライオンが理想とするモードを基調としたジャズ新時代の幕開けであった。

 ハッチャーソンの父親はデクスター・ゴードンの親友で、ゴードンはボビーのベビーシッターを務めたそうだ。ゴードンのこと、子守唄代わりにテナーを吹いていたのかもしれない。ハッチャーソンが短期間でモード奏法をマスターし、自分なりに進化させることができたのは、幼い頃から単調ではないリズムとハーモニー、それに酔うほどテンションが高くなるゴードン流のジャズ感覚を身に着けていたからだろう。
コメント (23)
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