デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

クリス・コナーのレコード・コレクション

2009-09-06 08:15:32 | Weblog
 300万枚を所有している世界一のレコードコレクター、ポール・マウヒニィ氏には遥か及ばないだろうが、世にレコードの収集を趣味にしている方は多い。三度の飯を抜き、中古レコード店のバーゲンセールにいち早く並び、集めたレコードは、整理に追われ、置き場所に悩みながらも増えるコレクションを見るだけで満足できるものだ。本来音楽を聴くためのソフトにしか過ぎないが、聴く楽しみ以上に集める喜びもあるのがレコードの魅力でもある。

 先月29日に亡くなったクリス・コナーは、女性では珍しいレコード・コレクターだった。アン・リチャーズ、ジューン・クリスティ、アニタ・オデイ、そしてクリス、ケントン・ガールズが亡くなっていくのは時の残酷さを覚えるが、在りし日の歌声を聴けるレコードのありがたみを訃報に接する度に感じる。ベツレヘムに3部作を残してアトランティックに移籍したクリスは、ここで13枚のアルバムを作り、後期は黒人ブシを取り入れ、パラマウントに移ってからはボサノヴァやポップチューンもレパートリーにする等、従来の唱法に囚われないスタイルを身に着けた。たとえそれが売るための会社の方針であっても果敢にチャレンジしたこと変りはない。

 脂が乗り切ったアトランティック時代はLPだけではなく、シングル盤も18曲ほど録音している。「ミスティ」と題されたアルバムは、日本独自の企画で、そのシングル盤から選りすぐった14曲を収録しているが、エロール・ガーナー作のタイトル曲はLPに収録されなかったのが不思議なくらい素晴らしい。ジョニー・バークが付けたお馴染みの歌詞「Look at me」のクールな歌いだしからドラマティックな展開になり、愛する人と手を携えなければ独りでは歩けない弱い女心を巧みに表現している。当時、シングル盤はジュークボックス向けに作られたものがだ、街のあちこちでハスキーで深い霧に包まれた「Too misty」が流れていたのだろう。

 クリスの膨大なレコード・コレクションで、いつも棚の中心に置かれていたのはおそらく自身のレコードで、一枚一枚分身のように光り輝き、また、多くのコレクターのクリスのレコードもいつまでも色褪せることもなく、いつまでも聴き継がれるに違いない。享年81歳。合掌。
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