デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ソニー・クラークって誰?

2009-09-20 22:24:06 | Weblog
 ピアノを弾かない人でも知っている名曲「乙女の祈り」を作曲したテクラ・バダジェフスカ、ディスコでは今でもかかる定番ナンバー「天使のささやき」で知られる黒人女性3人組ユニット、スリー・ディグリーズ、毎年夏にやってきて全国を回るテケテケオジサンのベンチャーズ、さて共通点は何だろう。日本ではその分野をかじった人なら知らない人はいないくらい有名だが、本国では全く知られていないという。
 
 ソニー・クラークもそんなひとりだ。ジャズを普段聴かない人でも、「クール・ストラッティン」の脚ジャケットには見覚えがあるほど有名なピアニストだが、本国では無名に近い。ブルーノートのハウスピアニスト的存在で多くのアルバムに参加しているので、人気があるように見えるが、これはジャズ専門のマイナーレーベルのお家の事情による。アルフレッド・ライオンは短期間にカタログ数を持ちたかったため、ギャラの安い無名のミュージシャンを登用し、集中的にレコーディングすることで財政難を切り抜けた。無名とはいえ実力のあるクラークなら多くのセッションを重ねることでいずれ人気が出るだろうという思惑もあったのだろうが、本国では評価されないままその31歳の短い生涯を終えている。
 
 中古レコード店の永久在庫になりそうなデザインのジャケットは、80年当時キングレコードが編集したアルバムで、鍵盤ジャケットの別テイク3曲と、シングル盤で発売された6曲で構成されたものだ。別テイク3曲は世界に先駆けて日本で発表された貴重なものであり、クラークとポール・チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズの三位一体によるトリオ演奏は躍動感にあふれ、本テイクと比べても全く遜色がない。クラークのピアノを「後ろ髪引かれるような」と形容したのは、評論家のレナード・フェーザーだが、まさにバック・ビートを強調したプレイはブルージーこのうえなく、このブルージーさが演歌という土壌を生まれながにして持っている日本人の琴線を揺さぶるのだろう。
 
 58年の「クール・ストラッティン」はセールス不振で、61年の「Leapin’ And Lopin’」までの3年間が空白になっている。そのアメリカでは売れない「クール・ストラッティン」が、日本から大量注文がきてライオンは驚いたという。本国で売れることが人気につながりそれが勿論一番なのだろうが、本国では無名でも外国で評価され人気があるのは、ある意味本国で売れる以上に格好がいい。家庭では相手にされなくとも、外では少しばかり人気あるのが格好いいオヤジだと、小さな世界に自分を重ねてみる。
コメント (20)
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