デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ふたりのポール、ハウ・ハイ・ザ・ムーンを弾く

2009-10-04 07:35:54 | Weblog
 エレクトリックギターのレスポール・モデルに名を残すレス・ポールは、発明家としても知られている。エレキギターの原型とも言えるソリッドボディを作成し、レコードのカッティングマシーンを自作し、ビング・クロスビーにプレゼントされた当時では珍しいドイツ製のテープレコーダーを改造して多重録音も成功させた。多くのロック・ギタリストに尊敬されるポールだが、発明家としてもノーベル賞ものである。

 数多くヒット曲を出していて、なかでも夫人のメリー・フォードとのデュオ「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」は、51年に全米1位を獲得する大ヒットになった。モーガン・ルイスが40年に書いた曲で、ヘレン・フォレストがベニー・グッドマン楽団の専属時代に歌ってヒットしたものの、その後は誰が歌っても当たらないことからプロデューサーは録音に難色を示したという。パーカーが「オーニソロジー」を、そしてコールマン・ホーキンスが「ビーン・アット・ザ・メット」をこのコード進行を基に作曲しているが、その当たらない曲の独特なコード進行を巧みにエレキギターで蘇らせたレス・ポールの功績は大きい。

 このヒット以来、ジャズ・ヴォーカリストも挙って歌うようになるが、決定的名唱といえばグラミー賞を獲得したエラ・フィッツジェラルドのイン・ベルリンだろう。ポール・スミスの歯切れのいいイントロから歌いだし、圧巻は一音一句ミスのない高速のスキャットで、さらに「ソルト・ピーナッツ」や「煙が目にしみる」のフレーズもちりばめ聴衆を沸かす。鳴り止まぬ拍手をかき消すようにポールのピアノが一段と響き渡り、熱いライブの興奮は止まない。ビッグバンドをバックに歌うのが歌手にとって最高の場であろうが、そのビッグバンドに匹敵するほどの歌伴ができるのがポール・スミスである。さぞステージをあとにするエラも気持ちがよかったに違いない。

 レス・ポールはギターの音を増幅するため試行錯誤を繰り返すが、最初に思いついたのは電話の受話器をギターに取り付けてアンプとして試すことだった。電話ついでに、メリー・フォードの本名は Iris Colleen Summers で、これではレス・ポールという名前と相性が良くないと考えたポールは、その芸名を電話帳から探したという。発明も発見も身近なものにヒントがあるようだ。
コメント (33)
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