デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ロージーとエリントンが咲かした青いバラ

2009-11-01 08:45:16 | Weblog
 遺伝子組換え技術を用いて開発した世界初の青いバラ「アプローズ」が今月から発売されるという。バラには青い色素がないため青いバラは、「不可能の代名詞」といわれ、バラ愛好家の中では夢とされているが、開発の歴史は古く、57年に「スターリング・シルバー」や「ブルームーン」の品種が発表されている。「喝采」と名付けられた品種は、写真で見ても従来の品種よりも鮮明に青を発色して目にも鮮やかだ。

 「ブルームーン」よりも前の56年に「ブルーローズ」を発表したのはエリントンである。とは言っても美しいことは同じだが花ではなく、ロージーことローズマリー・クルーニーに捧げられた曲だ。エリントンは女性に花のかわりに曲を贈ることを習慣にしており、エリザベス女王をはじめ、エラ・フィッツジェラルド、アリス・バブス等、女王からシンガーまで幅広い。作曲の嗜みがある人が女性を口説くために曲を贈る話はよくあるが、紳士のエリントンが贈ったのはその女性を讃える「喝采」であり、その女性だけしか持ち得ない「美」を表現したものだった。捧げられたどの曲もその女性にとって最も似合う装いである。

 「ブルーローズ」をタイトルにしたアルバムは、ロージーが妊娠中だったため、エリントン楽団の伴奏テープにあとから歌を吹き込む形で作られたものだが、そんな背景など感じさせないほど楽団と一体になった歌唱だ。アレンジャーのビリー・ストレイホーンが、事前にキーやテンポなどを綿密に打ち合わせた結晶であり、それはエリントンが楽団の専属シンガー以外と初めて作るヴォーカル・アルバムとしてもエリントンの名に恥じない傑作であろう。重厚なハーモニーと強力なスウィングに変わりはない録音テープをバックに、エリントンが丹精込めて書いた曲を丁寧に歌うロージーはバラよりも美しい。

 多くのバンドリーダーはどんなに優れたソロイストとアレンジャーを揃えても不可能なのはエリントン・サウンドだという。遺伝子組換え技術により、美味しい食品や美しい花が開発されることに吝かではないが、安全性や倫理性には疑問が残る。バラにしてもより自然に近い色を持つ青いバラも出来るのかもしれないが、どんな技術を駆使しても自然の色には追いつかないだろう。「不可能の代名詞」は不可能のままでいい。
コメント (26)
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