デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

マッコイ・タイナーとコルトレーンは車中で意気投合した

2009-11-22 08:21:06 | Weblog
 「新しいバンドを結成するから参加しないか?アパートも用意するからマッ、コイよ」 同郷の先輩ベニー・ゴルソンからのありがたい誘いだった。早速、廃車寸前の車でニューヨークに向かったものの、何しろフィラデルフィアから出るのは初めてのこと、さんざん道に迷い、挙句の果てに車は故障する。押して行くわけにもいかず、モッタイナイナーと思いながらも車を捨て、ゴルソンに救いを求めると、生憎外せない仕事が入っているから弟分のテナー奏者を迎えにやるよ、と。

 マッコイ・タイナーとジョン・コルトレーンの初めての出会いである。無事、コルトレーンの迎えでニューヨークに着いたマッコイは、ゴルソンとアート・ファーマーが結成したジャズテットに加わり、めきめき頭角を現す。半年が過ぎた頃、マイルスの下を去って独立したコルトレーンが誘いにきたが、マッコイは恩のあるゴルソンを裏切るわけにもいかず躊躇していた。そこで、「ソン敬しているゴルソンさんにはソンな話と思うのですが、マッコイを私のバンドに」と、コルトレーンがゴルソンに頼みこむ。育ててきたマッコイを手放したくはなかったが、常にジャズシーンの活性化を願うゴルソンは、退団を認めたばかりか、新人のエルヴィン・ジョーンズも紹介し、弟分の門出を祝った。

 「リーチング・フォース」は、コルトレーン・カルテットで破竹の勢いにあったマッコイの2作目のリーダーアルバムで、バド・パウエルの伝統とコルトレーンから学んだモードスタイルを合わせた個性的なピアノが聴ける。初リーダー作はエルヴィン・ジョーンズが参加したせいかコルトレーン・グループのトリオ版という印象は免れなかったが、こちらはヘンリー・グライムスのベースと、ロイ・ヘインズのドラムで、明確にマッコイのスタイルを打ち出した作品になった。タイトル曲の流れるようなタッチと躍動感あふれるフレーズ、バラードの「グッドバイ」からひしひしと伝わる叙情性、ゴルソンがあの時コルトレーンに迎えを頼むんじゃなかったと後悔した理由がよくわかるだろう。

 マッコイはジャズ史上に残るコルトレーン・カルテットの一翼を担い、66年に大きく変貌するコルトレーンの下を離れ、その後自己のバンドを結成する。その間、マッコイほどのピアニストでも仕事がなく、職を探しにタクシー会社に行ったそうだ。そこの社長はマッコイがジャズピアニストであることを知っていて冗談だろうと断ったが、もしマッコイがタクシードライバーなら、乗客は目的地に着かなかったかもしれない。
コメント (18)
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