デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

フレンチ・ホルンでアイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユーを聴いてみよう

2009-12-13 07:52:19 | Weblog
 12月に入ると宴会が続き、若い頃のように最終まで毎度付きあえぬが、先日流れで二次会に場所を移すと先客のグループに知人がいた。挨拶もそこそこにやおら手帳を取り出すと、リー・モーガンの 「アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー」を聴きたいのですが、と訊かれた。今しがた流行りのJポップをカラオケで歌っていた20代の女性で、ましてジャズが好きだとは聞いたことがないので怪訝そうな顔をすると、山田正紀の小説に出てくるので気になっていたという。

 モーガンが22歳の誕生日前に録音した曲で、18歳でデビューした天才ならではのやや荒削りとはいえ歌心あふれる演奏を思い出す。生憎その作家の「イノセンス」という作品は読んだことがないので、モーガンのこの曲が小説のなかでどのような存在感を持つのか興味がそそられるが、おそらく数ある名演からモーガンを選んだのはあの物悲しいトランペットの音色に魅せられたのかもしれない。シナトラが作者のひとりとしてクレジットされている曲で、シナトラの名唱やビリー・ホリデイの絶唱で知られるバラードだが、テーマ部の高低ある彩りがアドリブパートで無限の発展をみせるせいかインストも多い曲だ。

 フレンチ・ホルンの第一人者として知られるジュリアス・ワトキンスも、「French Horns For My Lady」でストリングスをバックに名曲に挑んでいる。チャーリー・ラウズと組んだジャズ・モードが話題を呼んだくらいで、楽器の特異性もあり目立たない存在だが、ホルン特有のしなやかな音色はバラードで際立った香りを放つ。他にジャズホルニストがいないので比べることができないが、ミンガスのブラス・アンサンブルに白羽の矢が立つだけテクニックも完璧ということだろう。レイ・ドレッパーのチューバ同様、ワトキンスのフレンチ・ホルンも花形楽器では味わえないジャズの面白さを発見できる。

 その曲は「ヒアズ・リー・モーガン」というアルバムに入っていて、モーガンが丁度貴女の年齢のころの作品ですよ。持っているのでお貸ししましょうか、と答えたが、念のためレコードプレイヤーはお持ちですかと訊いた。今度は逆に怪訝そうな顔で、レコードですか・・・と困った様子。どうやら平成生まれの世代はレコードプレイヤーはおろか、レコードすら見たことがないらしい。
コメント (18)
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