デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジョニー・ホッジスとアール・ハインズの談笑

2009-12-20 07:42:47 | Weblog
 細いトーンのクラリネットで知られるルディ・ジャクソンがエリントン・バンドを辞めたあと、フレッチャー・ヘンダーソン楽団の息の長いフレージングで人気を集めているバスター・ベイリーと、チェック・ウェッブ楽団やラッキー・ロバーツ楽団で澄み切ったアルトを吹くジョニー・ホッジスのどちらを入れようかとエリントニアンが相談する。28年当時最高のクラリネット奏者だったベイリーを推す声が強かったが、バーニー・ビガードがホッジスを入れるべきだと主張した。

 51年から55年まで自分のバンドを持った時期を除いて、その死に至るまでの40年間、エリントニアンとして音楽人生を送ったホッジスのスタートである。エリントン・バンドの重要なスター・プレイヤーであるとともに、ベニー・カーター、ウイリー・スミスと並ぶスウィング時代の3大アルト奏者であり、音色の美しさでは彼の右に出る奏者はいないだろう。美しい音色のアルトはいくらでもいるだろうが、ただ美しいだけではない。ヴィブラートは細かく、そして深みがあり、そのうえメランコリックなのだ。短いフレーズで端的にまとめ、歌う術の全てを内包した稀代のアルトはチャーリー・パーカーも崇拝したほどだ。

 ヴァーブに小編成のアルバムが多数あり、なかでもアール・ハインズと共演した「ストライド・ライト」は、キャリアもスタイルも違う両者の匠を聴けるアルバムである。いかにもノーマン・グランツが好きそうな大物同士の顔合わせセッションだが、ふたりに距離感はなく、アドリブ交換も息が合い、互いのプレイを尊重しながら熱く音を重ね、ケニー・バレルやリチャード・デイヴィスのサイド陣もその輪に溶け込む。おそらくコートに身を包んだジャケット写真は、セッション前のふたりであろう。にこやかな表情からは既に完成度の高い作品を予感させる。匠とは会った瞬間に笑みがこぼれ、セッションでは和を崩さず、それでいて自己主張をも忘れない人をいう。

 エリントンは回想している。「ホッジスはわたしの知るかぎり、温まっていないサックスでチューニングしないでちゃんとした音を吹ける唯一の男だ。一日中チューニングしても、ちゃんとした音で吹けないミュージシャンのことをたくさん聞いているのだ」と。ビガードがホッジスを強く推薦したのは、常に水準以上のオーケストラ・サウンドが求められるエリントン・バンドにとってこのチューニングひとつが如何に重要なことなのかを知っていたからであろう。
コメント (14)
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