デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

エリザベス・テイラーの微笑みの面影

2011-04-03 07:32:52 | Weblog
 男なら一度は言ってみたい科白がある。「男が必死に働くのは、ダイヤと毛皮と名画を欲しがる美女のためだ」と。よほどの成功を収め、美女を手にしない限り言えないが、それをさらりと言ったのは映画プロデューサーのマイク・トッドだ。それもそのはず、映画「八十日間世界一周」を大ヒットさせ、映画史上最も美しい女優の筆頭に挙がるエリザベス・テイラーと結婚したからで、それも25歳も年下となればキザな言葉も出るのだろう。

 12歳で映画デビューして以来、銀幕を飾ってきたリズの愛称で呼ばれる大女優が亡くなったのは先月23日のことだ。数々の作品と美貌を想い出すが、なかでも「いそしぎ」は、当時はタブーとされていた不倫の恋を描いたもので、ジョニー・マンデルが作曲した主題歌「The Shadow of Your Smile」の哀しげなメロディが恋の行方を仄めかしてした。映画の原題は「Sandpiper」で、単体で旅立つ渡り鳥の磯シギを直訳したものだが、1965年にアカデミー主題歌賞を獲得したこの曲も同邦題で呼ばれることがある。今更邦題を変えろとは言わないが、歌詞も曲調も原題に沿った「微笑みの面影」と言ったほうがしっくりくる曲だ。

 数々のヴァージョンがあるなかで、この曲をアルバムタイトルにしたアストラッド・ジルベルトが際立って美しい。スタン・ゲッツと共演したことで一躍ボサ・ノヴァの女王に君臨したジルベルトの2枚目のアルバムになるが、クラウス・オガーマンやドン・セベスキーといった超一流のアレンジャーを配したことで、軽いノリだけのボサ・ノヴァではなく、より以上の洗練されたアルバムに仕上がっている。ボサ・ノヴァで映える選曲も見事なもので、「デイ・バイ・デイ」は、このアルバム以降ほとんどボサ・ノヴァで歌われるほどだ。プロデューサーはクリード・テイラーで、ジルベルトの売り出しとボサ・ノヴァを世界に流行らせる戦略が功を奏した作品といえよう。

 映画「いそしぎ」も不倫の恋なら、実生活のリズもトッドを飛行機事故で亡くしたあと、エディ・フィッシャーと不倫の恋に落ちた。アカデミー賞の候補に2度挙がりながらも不倫スキャンダルが原因で受賞できなかったが、三たびノミネートされた「バターフィールド8」で受賞している。それは投票が始まる一週間前に急性肺炎にかかり、「リズの死は時間の問題」と新聞に載ったことで同情票が集まったからだという。その新聞記事が現実になった。享年79歳。合掌。
コメント (28)
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