デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ブッカー・アーヴィンの宇宙飛行

2011-04-17 08:18:03 | Weblog
 旧ソ連の宇宙飛行士ガガーリンが、人類初の宇宙飛行に成功してから先日4月12日で、丁度半世紀経つという。帰還後に語った「地球は青かった」という言葉は、それまでSFの世界でしかなかった想像の宇宙を、現実味を帯びた身近な宇宙として捉えることができるほど影響が大きく、その後制作されたSF映画に映し出される地球は必ず青かった。そして、子ども心に未知の宇宙にロマンを抱かせるほどその言葉は印象が強い。

 ガガーリンがボストーク1号から見たであろう宇宙を切り取ったジャケットは、ブッカー・アーヴィンの「スペース・ブック」で、ワンホーンで自在に宇宙遊泳する傑作だ。バックはジャキ・バイアード、リチャード・デイヴィス、アラン・ドーソンで、64年当時既にスタイルが完成されていた名プレイヤーばかりである。名前から取ったブック・シリーズは、「The Freedom Book」を皮切りに「The Song Book」、「The Blues Book」と続きこのアルバムが最終巻となるが、それぞれタイトルに因んだ選曲で、自由奔放なソロ、歌心、基であるブルース、そして宇宙を思わせる広大な音楽観を表現している。

 アーヴィンは、その独特のユニークな音色と癖のあるフレーズゆえ大きく好みが別れるテナー奏者だが、止めなければ延々と吹き続けるソロはどこまでも力強い。この長尺のソロが垂れ流しと敬遠されるきらいがあるが、吹くほどに熱を帯びるフレーズは聴き手のこちらを高揚させるし、ミンガス・グループ出身ならではの流行にながされない確固たるスタイルは、同門のドルフィーやテッド・カーソン、ジョン・ハンディ同様、筋が通っている。その強い個性は文庫本を手にするような気軽さではなく、両手でも持てない全集の重みがあり、それがそのまま過小評価につながっているのだが、全集を紐解くとそこには宇宙のような未知の世界が待っているだろう。

 人類初の宇宙飛行以来、アポロ11号の月着陸や宇宙ステーションの建設等、この半世紀で宇宙開発は目覚しい進歩を遂げ、さらにこの先、半世紀も経つと隣町に行くような簡単な準備で宇宙旅行に行けるかもしれない。SF作家のジュール・ヴェルヌが、「月世界旅行」を発表したのは1865年だったが、SF小説が2世紀後には現実になろうとしている。宇宙船から地球を見て、「地球は青かった」と言ってみたいものだ。
コメント (20)
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