デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

イングリッド・ジェンセンの美人な音

2011-06-05 08:04:06 | Weblog
 先日、道内の中学校では珍しい室蘭市のジャズバンド部がテレビで紹介されていた。道内のジャズ・フェスティバルへの出演や、日野皓正との共演がテレビで放映されたこともあり記憶されている方もあろう。ここ数年、映画「スウィングガールズ」の影響もあり、男子に混じって管楽器を手にする女子部員も多い。矢野沙織や札幌市出身の寺久保エレナの活躍が刺激になっているのかもしれない。

 ジャズで女性といえばピアニストが圧倒的に多く、50年代に活躍したトロンボーン奏者のメルバ・リストンの名を思い出すくらいで女流管楽器奏者は極めて少ないが、肺活量や体力が男性並になったのだろうか最近は女性も大活躍だ。なかでもオランダのアルト・サックス奏者ティネカ・ポスマと並び、トランペッターのイングリッド・ジェンセンは美人として知られる。美女は管楽器を持つだけで絵になるが、ジェンセンは難しいスコアを書くマリア・シュナイダーのビッグバンド出身というから実力のほども立証済みだ。女流奏者を評して、とても女性とは思えない云々というのが最上級の誉め言葉のようだが・・・

 とんでもない。しなやかな指使いと優しい音はとても男性には真似のできない肌理の細かさだ。その女性ならではの感性はワンホーンで吹き上げるコール・ポーターの名品「エヴリタイム・ウィ・セイ・グッドバイ」から伝わってくる。歌詞の一節には「メジャーからマイナーに」というくだりがあって、実際に変化するコード進行を使った曲なのだが、その変化は邦題の「いつもさよならを」繰り返しながらも会いたくなる心情を女性の側から表現したものだ。ジェンセンのような美女に自ら別れを告げることはないだろうが、もし彼女にそれを言われたなら、また戻ってきてくれるだろうという淡い期待を抱かせるほど「女」の愛情がそこにはある。

 ジャズバンド部があった室蘭市の中学校は統合されて廃部も危ぶまれていたが、存続要望が実って新たな一歩を踏み出したという。その中学校としての最後の定期演奏会にゲストとして共演した角田健一は、「ここからプロになる子がきっと出てくる」と言っている。日本のジャズシーンを賑わすかもしれない将来の美人管楽器奏者の目はよく磨かれた管楽器のように輝いており、音は抜けるような青空に響いていた。

敬称略

コメント (23)
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