デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

チャーリー・パーシップの3つの願い

2011-06-19 07:46:40 | Weblog
 ジャズの支援者として知られるニカ男爵夫人が、1960年代に300人のジャズ・ミュージシャンに、「もし3つの願いが叶うなら、なにを望む?」と訊ねている。その回答をまとめたのが、「Three Wishes」という本だ。一癖も二癖もあるミュージシャンたちもパノニカの前では素直になるとみえて、なかには冗談めいたものもあるが、真面目に切実な願いを答えていた。血気盛んな若者は「Sex」、落ち着いてくると「Health」という単語が出てくる。

 そして一番多いのは「Money」で、なかでもフィリー・ジョー・ジョーンズは「Money,money,money!」の3つを挙げていたが、示し合わせたように全く同じ回答を寄せているのはチャーリー・パーシップだ。ガレスピーのバンドを皮切りに多くの仕事をこなしているドラマーなので、金に不自由していないように思えるが、1960年代という時代に重ねるとパーシップの願いもわかる。それは1960年にザ・ジャズ・ステイツメンというコンボを率いていたからだ。ブレイキーに対抗したような形で、このリーダー作にはフレディ・ハバードやロニー・マシューズ、ロン・カーターという将来のジャズ界を担う若手を起用しているが、メッセンジャーズほどの知名度もないためグループ維持に金も必要だったのだろう。

 ドラマーとしては中堅どこで、派手さがないこともあり多くのレコードで耳にしているにもかかわらず目立たないが、パーシップってすげえなぁと感心したのはレッド・ガーランドのセント・ジェームス病院だった。「When There Are Grey Skies」をお持ちの方は早速聴いてみよう。ガーランドのシングルトーンから演奏が始まり、数小節弾いた一瞬に入るブラッシュである。いや、一瞬というより時間の最小単位の刹那と言ったほうが正しいか。歌い、泣く表現力に優れた名手や、機械のように正確なテクニシャン、どんなに広い会場でもマイクを必要としない大きな音を出せる怪物は数いても、絶妙なタイミングを計れるドラマーは少ない。
      
 さて、貴方なら3つの願いに何を挙げるだろう。健康、成功、名声、平和、幸福、愛・・・そして、ジャズ・ミュージシャンでなくとも金をその一つに入れるかもしれないし、欲張りな小生のように3つでは足りないかもしれない。天明期を代表する狂歌師の太田南畝は、「世の中は いつも月夜と米の飯 それにつけても金の欲しさよ」と詠んでいる。古今東西、願いは同じなようで、簡単に叶わないのも同じである。
コメント (25)
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