デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ロレイン・ゲラーはポインシアナという花に似て美しく

2012-09-23 08:26:59 | Weblog
 作家の倉橋由美子さんがオーネット・コールマンの「ロンリー・ウーマン」を始めて聴いたとき全身の細胞が震える体験が得られた、というようなことをエッセイに綴っていた。名曲中の名曲で、不協和音の美しいメロディラインが不思議なことに心地良い。細胞が震えるのはこの不協和音からくるものだろう。今では古典になったフリージャズ黎明期の曲の元になったのは、「トゥモロウ・イズ・ザ・クエスチョン」の中の「Lorraine」である。

 美人薄命というがこの曲は、30歳の若さで亡くなったロレイン・ゲラーに捧げられたものだ。アルト・サックス奏者のハーブ・ゲラーとおしどりコンビで知られているピアニストで、バド・パウエル直系のスピード感あるソロは力強さの点でも男性に引けを取らない。活動の中心はウエスト・コーストで、レッド・ミッチェルの初リーダー作に参加したり、ハワード・ラムゼイのライトハウスにも出演していた。ローチに連れられてひょっこりライトハウスに現れたマイルスとも共演している。このときの演奏はマイルス・ファンなら封印したくなる内容だが、ロレインは溌溂としており、マイルスが麻薬を断ち切ろうと決心したのはこの演奏の直後なのでロレインに刺激されたのかもしれない。

 そのロレインの唯一のリーダーアルバムが「アット・ザ・ピアノ」で、もともと発売は予定していなかったデモ用の音源を追悼盤としてドットからリリースしたものだ。デモ用とはいえ非常に質の高い作品で、儚く散ったロレインの魅力に触れることができる。4曲のオリジナルは音楽的に完成度が高いうえ、バップのエッセンスが随所に散りばめられており作曲家としての才能も見過ごせない。スタンダードでは無伴奏ソロの「ポインシアナ」がドラマティックな展開で、後半テーマ・メロディが出てくるとろこはゾクッとするほど美しい。ポインシアナという花は大きく赤色五弁で総状について美しいという。

 さて、女流バップピアニストとニュージャズの旗手はどこに接点があったのだろう。レコード上で共演はないが、デビュー前、ロサンゼルスでコールマンは異端者の扱いを受けながらもジャムセッションに参加している。この時期にロレインと共演したことは十分考えられるし、クラシックを学んでいたロレインが異端者のジャズを理解できたとしても不思議ではない。ただ一人の理解者がいればジャズも変わる。
コメント (15)
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