デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

最強のふたり バード・アンド・ディズ

2012-09-16 08:17:15 | Weblog
 先日、フランス映画「最強のふたり」を観た。2011年にフランスで公開された映画では最大のヒット作で、東京国際映画祭でも賞に輝いた話題作だ。実話に基づいた作品で、車いすで生活している大富豪と、その介護者として雇われた黒人青年との交流を描いている。生活環境や経済状況はもちろんのこと年齢も性格も趣味も全く異なる二人がお互いを認め合い、絆を深めていくプロセスを見事に描いていた。

 ジャズ界で最強のふたりといえばバードとディズだろうか。ビ・バップを語るとき必ず出てくる名前であり、この二人がいなければモダンジャズの完成もなかっただろうし、今のジャズもありえない。43年のシカゴ・サヴォイホテルでの二人の初共演はボブ・レッドクロスによって録音されているが、そこから53年の最後の共演まで、幾多のセッションは両者の切磋琢磨する姿が明確な音として記録されている。10年間も活動をともにすると人生観や音楽観の相違から溝ができるものだが、二人の天才にはそれがない。かつてバードは俺の心臓の鼓動の半分はディズのものだ、と称えたように二人にはバップという同じ血が流れていたのだろう。

 バードはヴァーヴに数多くの作品を残しているが、なかでも50年に録音された「バード・アンド・ディズ」は議論の的になる。ピアノはモンク、ベースはカーリー・ラッセル、順当な人選ならドラムはロイ・ヘインズかマックス・ローチなのだが、何とバディ・リッチ。これがミスマッチ論議だが、世間が騒ぐほどの違和感はないと思う。確かにコンセプションの違いからくるズレはあるものの、これが寧ろスリルを生んでいるのではなかろう。「マイ・メランコリー・ベイビー」という選曲ミスとも思える甘い曲が甘くならないのは、バードとディズの感性、そしてリッチの気魄が合致したからなのだ。ときにミスマッチから名演は生まれる。

 映画で大富豪が好みのクラシック音楽をアース・ウィンド&ファイアーで踊る黒人青年に聴かせるシーンがあった。「バッハはやばい、あの時代のバリー・ホワイトだ」という感想は、音楽を通して理解しあう両人を表している。後世に残る楽曲を書いたバッハは、多くのソウル・ミュージックを生み出したあの時代のホワイトなら、即興演奏の大家として知られていたバッハはあの時代のバードとディズかもしれない。
コメント (23)
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