デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

The Elusive Pianist Joe Albany

2013-04-07 08:01:48 | Weblog
 数々のジャケット写真で知られていたウィリアム・クラクストンが、ドイツのジャズ評論家ヨアヒム・ベーレントから米国ジャズシーンの撮影を依頼される。それを一冊の写真集として出版した「Jazz Life」(Taschen 刊)にジョー・オーバニーのショットがあった。レスター・ヤングやパーカーと共演したピアニストだが、50年から60年代は重度の麻薬とアルコール中毒のため刑務所や療養所の生活が長く、シーンから忘れられた人である。

 撮影されたのは1960年で一時的に体調が良かったときなのだろう。場所はフィル・スペクターが拠点として次々とヒット曲を生み出したハリウッドのゴールド・スター・スタジオなので、ポップスのレコーディングに呼ばれたのかもしれない。ピアノに向っている姿を斜め上からとらえたアングルで、1枚はピアノに向っていて音が聴こえてきそうなショットだが、もう1枚はカメラを上目遣いで睨み付けている。これが角度的にもパーカーと喧嘩をして歴史に残るダイアル・セッションに呼んでもらえなかったキレるジャンキーの心の闇をとらえているようで、その目は戦慄するほど怖い。これはホラー映画のワンシーンだと言われても疑わないだろう。
 
 その恐怖映画の主人公が本格的にカムバックしたのは70年代に入ってからで、「Two's Company」は74年にベースのニールス・ペデルセンとデュオで録音されたものだが、空白の凡そ20年間のオーバニーは時間が止まっていたのかと思うほど完全なバップスタイルだ。タイム感覚に特色あるピアノで、ぎくしゃくした音とフレーズは不思議な魅力がある。完璧なベースを弾きこなすペデルセンとは異色の組み合わせのように思えるが、ペデルセンはベースを覚えた頃を思い出したかのようにバップのフレーズを刻む。ダメロン作の「If You Could See Me Now」というタイトルが二人の最高の出会いを表しているようだ。

 クラクストンはその写真集でオーバニーを「The Elusive Pianist」と紹介している。捉えどころのないピアニストという意味だが、それはパーカーや、その前に参加したジョージ・オールドのバンドでも将来を嘱望されながら気性の激しさから喧嘩になり両バンドともクビになった才能あふれるピアニストを良く知っての表現だろう。パーカーはオーバニーを解雇したとはいえ、パウエルに次ぐ名ピアニストと賞賛している。
コメント (15)
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