デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

モーダルなインヴィテーションにご招待

2013-04-21 08:56:27 | Weblog
 ピアニストでソニー・クラークの研究家として知られる中山智広さんが、「スタンダード・ジャズ・ガイドブック 170曲 for Players」(中央アート出版社刊)で、ブロニスロウ・ケイパー作の「Invitation」を分析している。50年代の作曲だが、60年代にミュージシャンが作曲した「モード+コード」の曲みたいだ、と。記号が並んだコードではモードを理解できないが、耳で確かめると同じコードが何小節も続く部分は確かにモーダルに聴こえる。

 ソングライターとしてMGMと契約していたケイパーは数多くの映画音楽を手がけているが、この曲は「On Green Dolphin Street」と並んでジャズプレイヤーに人気のある曲だ。難曲ということもあり、この曲を演奏することは一種、一流のプレイヤーである証かもしれない。コルトレーンをはじめジョー・ヘンダーソン、デクスター・ゴードン、ビル・エヴァンス、アル・ヘイグ、ケニー・バロン等々、挙げたらきりがないが、録音した時期は全て実力が評価され、知名度が上がってからである。それだけ迂闊に手を出せない曲なのだろう。演奏するからには相当な自信があるとみえて、どの演奏も素晴らしい内容だ。

 デンマーク出身のトランペッター、アンデシュ・ベリクランツがニューヨークのスウィート・ベイジルで行われたライヴでこの曲を取り上げていた。マイルスとも共演したことがあるリック・マーギッツァのテナーと、リッチー・バイラークのトリオと組んだ2管のクインテット編成なので、それこそモーダルなマイルスの黄金クインテットを思い起こさせる。録音は1992年で、時期的にこのメンバーからはアグレッシブなスタイルが似合いそうだが、意外なことにストレートアヘッドな演奏だ。難曲を理論的に演奏することはアドリブの幅を広げるうえで必要だが、難曲と思わせない展開ができてこそ一流のミュージシャンといえる。

 件の本は、とあるジャズクラブに置いてあった。ステージに立つプレイヤーが参考にしているのだろう。小生のような譜面の門外漢には、コードは機械的な記号にしか見えないが、プレイヤーはそこから大きくアイデアを膨らます。さぁて、今夜はどのスタイルで演奏しようか。4ビートよし。モードよし。バラードもいい。サンバもいい。今宵も熱いジャズスポットに「招待」してもらおうか。
コメント (13)
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