デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ラッピングされたリー・スコットを味わう

2013-05-12 08:23:15 | Weblog
 5月に入っても高地や峠で雪が降るのは珍しくない北海道だが、東部では平地でも8年ぶりに積雪が観測されたという。ここ札幌では雪こそ降らないものの、連休中は天気が悪いうえ寒い。ここ数年この時期には咲いていた桜もその気配さえ感じられないほどだ。そんな寒い5月を題材にしたジェローム・カーンとオスカー・ハマースタインのコンビによるミュージカルがあり、そのなかの1曲が「オール・ザ・シングス・ユー・アー」である。

 うん?そのミュージカルは寒い5月ではなく、暖かい5月の「Very Warm for May」では?5月に一度話題にしようと思っていた曲なので、この際気温のことはご勘弁願おう。このミュージカルは失敗で、これが原因でカーンはブロードウェイを去ることになるが、曲は今でも歌われ演奏されるほどの大スタンダードだ。カーンは1939年当時のポピュラー音楽にそぐわないほど複雑な技法を用いて作曲したことにより自己満足したそうだが、転調を繰り返すこの難曲はプレイヤーからみると魅力があるとみえて一度は演奏している。一方、ヴォーカルとなると決定的な名唱がないといわれているし、実際これだ、というのを聴いたことがない。

 さて、その難曲をラップに包まれた美女が歌っている。タイトルは「Especially for you」で、「あなたのために特別よ」と言われると、躊躇なく中味度外視のジャケ買いだ。このリー・スコットというシンガー、声はジャケ同様甘いものの、温かみがあり、まるで柔らかい空気で包まれたようなぬくもりがある。ギターとフルートをバックにした歌い出しは滑らかで、どこか品があり清楚な感じさえ受けるし、ややフェイクをかけるもののメロディに忠実なあたり曲の持ち味を熟知しているのだろう。「ユー・ビー・ソー・ナイス」や「瞳は君ゆえに」、「ソング・イズ・ユー」といった奇を衒わない選曲はジャケットを飾っておくだけでは勿体ない。

 ♪ You are the promised kiss of spring time・・・「あなたは春の訪れを約束する口づけ」という歌詞のように、寒い寒いと言いながらも北海道にも春がやってきた。桜の開花予想日は例年より1週間ほど遅いが、札幌は今日12日である。♪ Time and again I've longed for adventure・・・ヴァースは「いつもいつも冒険に憧れてきた」と歌われる。さぁ、春の街を冒険しようか。リー・スコットのような美女と巡り会えるかもしれない。
コメント (18)
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