デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

あら、これがアランフェス協奏曲なの

2013-05-05 08:31:49 | Weblog
 クラシック音楽しか聴かないという人でもジョージ・ガーシュウィンの名前を知っているという。「サマータイム」や「アイ・ガット・リズム」ではなく、「ラプソディ・イン・ブルー」の作曲家としてだ。同じように音楽とはジャズだと信じきっている小生のようなベートーベンもモーツァルトも同じに聴こえるクラシック音痴もスペインの作曲家ホアキン・ロドリーゴの名前だけは忘れられない。そう、あのマイルスで有名な・・・

 「アランフェス協奏曲」である。この曲とて、もしマイルスがビッグトーンで鳴らしたベーシスト、ジョー・モンドラゴンの家に立ち寄ったときにレコードを聴いていなければジャズファンは知らなかったかもしれない。モンドラゴンにギターのパートをトランペットで吹いてみたら、と勧められてのことだ。そのメロディに魅せられたマイルスは、音の魔術師であるギル・エヴァンスとタッグを組んで「スケッチ・オブ・スペイン」という一大絵巻を創り上げた。さまざまな楽器を配した大胆且つ緻密なギルのアレンジに、良くコントロールされたマイルスの音色が重なったときの美しさは、ジャズ芸術と呼ぶに相応しい。

 元はギターの曲ということもあり、ギタリストがよく取り上げているが、バルセロナ出身のテテ・モントリューが果敢にピアノで挑戦している。原曲の持ち味を損なわないようにテーマは物静かにソロで入り、そこにジョージ・ムラーツのベースとルイス・ナッシュのドラムがタイミングよくからむ。短い演奏だが最後まで美しさにこだわる演奏だ。そしてアップテンポの「星影のステラ」、バラードの「イージー・リヴィング」と鮮やかな選曲のコントラストである。かつてベン・ウェブスターは、「ヨーロッパで最もスウィングするピアニスト」とテテを褒め称えていたが、その言葉は決して社交辞令ではないことがわかるだろう。

 いつだったかクラシック音楽を愛好する知人の家でオーケストラをバックにナルシソ・イエペスが演奏するアランフェス協奏曲を聴く機会があった。知人はジャズしか知らない小生でも聴いたことのある曲という配慮だったのだろうが、なかなかあのメロディが出てこない。マイルスが吹いた哀愁を帯びた旋律は第2楽章だと知ったのは随分後のことだ。いつになってもクラシック音痴だけは治りそうもない。
コメント (8)
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