デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

サヴォイのB級ジャケットを味わう

2013-06-02 09:14:17 | Weblog
 通常、スタジオの録音は1枚のアルバムを作るためにセッションが組まれるが、プレイヤーの調子が良ければ2枚分をレコーディングしたり、逆に不調だと数曲で止めたりしたレーベルがある。ジャケットを見るだけで嗚呼と低い呻きも出るサヴォイだ。乗ったミュージシャンがいると、とにかくテープを回すのが先で、それからレコードのことを考えるというわけだ。優秀なスタジオ・ミュージシャンを集めて曲名も決まらないまま次々と録音したハリウッドのポップスに似ている。

 そのような方式で録音を重ねると、1枚のアルバムに収めきれない曲が出てくる。それが内容も悪くなく、漏れたとはいえどうにも捨てがたい。ならばそれを集めて1枚のアルバムにしてしまおう、というわけで出来上がったのがこの「Jazz is Busting Out All Over」だ。積極的に売る気がないとみえてジャケットはサヴォイそのものである。そしてタイトルといえばアレンジャーのA.K.サリムのセッションからジョニー・ソマーズの名唱で知られる「June Is Bursting Out All Over」が収録されていることから、「June」を「Jazz」に変えただけのひねりのないものだ。6月に入るないなやこの曲を引っ張りだす小生と同じような発想か?

 トップに収められているのはアレンジャーのビリー・バー・プランクのアルバム「Jazz For Playgirls」と同じセッションの「ウォーキン」だ。マイルスですっかり有名になった曲だが、原曲はジーン・アモンズの「Gravy」で、さらにチェット・ベイカーのマネージャーだったリチャード・カーペンターなる人物が作曲者とされている。この作者も謎で、その辺りの推理は寺井珠重さんのブログ「"Walkin' "本当の作曲者」をご覧いただきたい。プランクの元、分厚いハーモニーから抜け出るフィル・ウッズをはじめセルダン・パウエル、ビル・ハリス、エディ・コスタ等、サヴォイ・オールスターズのソロは6月の空気のように澄んでいる。

 オムニバス盤とはいえ通して聴いても何ら違和感がないばかり、全て57年録音ということもありアルバム単体としてまとまったものだ。多くのマイナー・レーベルが数年で消え、ブルーノートやプレスティッジでさえメジャーに買収されるなか、39年にハーマン・ルビンスの手により設立され、75年にアリスタへ権利を売却するまで個人企業として経営を維持したのは立派だろう。質の高いジャズが詰まっているならB級ジャケットも味がある。
コメント (20)
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