デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

「青のロージー」とはレコード・ジャケットを賛美した通称である

2013-06-09 09:15:31 | Weblog
 お城のエヴァンス、カウボーイのロリンズ、ヨットのベイカー、銜えタバコのブライアント、信号機のチェンバース、鳩のサド、旗のシルヴァー、踊り子のペイチ、クリスの傲慢な女・・・タイトルではなく通称で呼ばれるアルバムがある。ジャケットを見るだけで音が聴こえてくる名盤ばかりだが、この呼び名が生まれたのは頻繁にリクエストのあるジャズ喫茶だ。仇名と同じでタイトルよりも呼び易く、親しみも込められている。

 先月CDで発売されたなかに「青のロージー」と呼ばれるアルバムあった。Rosemary Squires の「My Love Is A Wanderer」だ。英国では著名なシンガーだが、日本では無名に近いし、このアルバムにしても超が付く名盤ではない。では何故、通称で呼ばれるようになったのだろうか。このオリジナル盤は大変貴重で、熱心なヴォーカル・マニア間では高値で取り引きされるので、それを扱うレコード店との間で符丁として使われていた思われる。符丁だと素人にはわからないし、「Squires」の発音も曖昧だ。小生が所有しているのは93年に発売されたレコードだが、「スクァイア」とされ、今回発売のCDは「スクワイアーズ」となっている。

 それに何と言っても青を基調としたそのジャケットの美しさにある。カタカナ表記はともあれ、ジャケット同様、内容も素晴らしい。ややハスキーがかってキュートとでもいえばその声質がお分かりいただけるだろうか。タイトル曲をはじめ「エイプリル・ハート」や「アーリー・オータム」等、デビューアルバムとは思えない通好みの選曲に驚くが、なかでも「ミーン・トゥ・ミー」は唸る。ビリー・ホリデイでお馴染みの悲恋の歌を、この美しい顔で歌っていると思うだけで、ゾクッとする。バックはフランク・フィリップスのオーケストラで、これがまた英国らしくかっちりしており響きも良い。この紳士的な楽団を背にするだけでクイーンズ・イングリシュは一層美しい。

 先に挙げた愛称で呼ばれるアルバムにしても、この「青のロージー」にしても、ジャケットに対する呼び方である。それもレコードサイズの30センチ角だ。CD化され、貴重盤が広く聴かれるのは歓迎すべきことと思うし、重要なのは外を飾るジャケットではなく、中味の音楽である、という理屈も解らぬわけではないが、CDサイズのジャケットでは味わえないレコード・サイズだけに与えられた「美」もある。
コメント (20)
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