デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

シャリー・ホーン手作りの牛肉のビール煮を味わう

2013-08-04 09:13:19 | Weblog
 CD店で棚を漁っているとき、レコードで見ているジャケットならCDサイズに縮小されても迷わないが、このサイズで初めて見るアルバムは老眼のせいもあるが余程注意しないとスルーすることがある。このアルバムがそうだった。一度スルーしたものの直感的にスウィングの匂いを感じて手に取ってみる。瓶や缶が並んだだけのキッチンを切り取ったようなデザインだが、しばし見とれてしまった。

 よく見るとラベルにはプレイヤーの名前があるではないか。この類のデザインは珍しくないとはいえ、こんなネーミングの商品があるのかと勘違いするほど凝ったもので、それも参加メンバー全員というからジャケットを見るだけでお気に入りのスパイスを買い物籠一杯につめたような満足感がある。シャリー・ホーンの「The Main Ingredient」で、何と自宅にメンバーを招き、手料理を振舞って録音したものだという。ジャケット裏には牛肉のビール煮のレシピが載っているので、大皿に盛られた料理に舌鼓を打ちながら、寛いでレコーディングに臨んだのだろう。和気藹々とした雰囲気でスタジオとは一味違ったセッションが楽しめる。

 トップはシャリーの幼馴染みのドラマー、ロニー・ドーソンが作った「Blues for Sarge」で、いきなり仕掛けがある。ブルースに乗せてメンバーをひとりひとり敬意を込めて紹介しているのだ。こんな風に名前を呼ばれたら、いつも以上の閃きが湧くのは間違いない。次いでシャリーのコンサートで友人たちが心待ちにしているという「The Look of Love」だ。バート・バカラックの作だが、ジャズシンガーが好んで取り上げる曲である。そしてファッツ・ワーラーの「Keepin' Out of Mischief Now」、ペギー・リーでお馴染みの「Fever」と続く。録音した1995年当時ではあまり歌われなくなった曲ばかりだが、新鮮な息吹を与えてくれる。

 「私にとって主な構成要素が音楽だから」と、シャリーはこのタイトルにしたことを語っている。その主要成分にはシャリー邸を訪れ、手料理を味い、主を盛り上げたプレイヤーも欠かせない。シャリーがこのセッションを心行くまで楽しんだことは、ラストのトラック「All or Nothing at All」の最後の最後に収められているが、思わずニヤリとする。それは・・・最後まで聴いてのお楽しみだ。
コメント (11)
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