デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ボリス・ヴィアンが聴いたムード・インディゴ

2013-11-03 08:55:54 | Weblog
 「墓に唾をかけろ」や「死の色はみな同じ」、「心臓抜き」といったタイトルだけで一歩引きそうになる小説で知られるフランスの作家といえばボリス・ヴィアンである。エリントンに心酔した人で、小説にもエリントンをはじめジャズマンの名前や楽曲がちりばめられてジャズ好きの読者に人気だ。ヴィアンの代表作といえば、「日々の泡」や「うたかたの日々」のタイトルが付いた作品で、多くの国で翻訳されている。

 その小説を原作とした映画が先ごろ封切りされた。タイトルは「ムード・インディゴ」で、アメリカで出版されたときのタイトルを使っている。幻想的な内容を映像化しているので夢の世界にいる心地よさがあるし、何と言っても随所にエリントンの曲が使われているのは嬉しい。「A列車で行こう」に始まり、タイトル曲や「キャラヴァン」が流れ、1940年のファーゴ・コンサートで有名な「Chloe」がヒロインの名前だったり、エンドロールには何と・・・おっとネタバレするところだった。「ムード・インディゴ」の初演は1930年で、作曲に協力したバーニー・ビガードのクラリネット・ソロが大きくフィーチャーされている。

 木管楽器と管楽器のアンサンブルが織り成す色彩感あふれる厚みのある音は独特のけだるさを醸し出しており、エリントンならではの雰囲気を持った曲だ。このエリントン楽団の顔ともいえる曲にテナーサックス1本で挑戦したのはハリー・アレンだ。ベン・ウェブスターやコールマン・ホーキンスというテナーの王道を汲むアレンならではの選曲で、スウィング・センス抜群のビル・チャーラップのトリオをバックに朗々と歌い上げるさまはエリントニアンかと思わせるほどはまっている。もしエリントンが現役で、バンドのテナーを補充するなら真っ先にアレンの名前を挙げるかもしれない。
 
 「ムード・インディゴ」が初めて録音されたときは、「Dreamy Blues」というタイトルが付けられていた。この映画には「キャラヴァン」を弾くとリズムに合わせてカクテルが出来るピアノや雲に乗る恋人たちが出てくるシーンがあるが、まさに夢心地だ。そして「悲痛な恋愛小説」と評される原作とヴィアンの幻想的な作風にある本筋は生きることの意味や愛の形である。それこそブルースの世界だ。

コメント (12)
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