デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

終戦とともに流れた It's Been A Long, Long Time

2014-08-03 09:44:51 | Weblog
 1945年、終戦のニュースを聞いた作詞家のサミー・カーンが一気に書いたといわれる曲に「It's Been A Long, Long Time」がある。作曲したのはコンビを組んでいたジュール・スタインで、戦地に赴いた夫や恋人の無事な帰還を長らく待ちわびていた人たちの心情を描いている。今聴くとややノスタルジックな感もあるが、連合国の勝利とともに平和な日々が帰ってきた喜びを詞とメロディに乗せたのだろう。

 当時のレコード業界は同じ曲を競うようにリリースするのが当たり前だったが、この曲もレス・ポールをバックにしたビング・クロスビーをはじめ、ハリー・ジェームス楽団でキティ・カレンが歌ったもの、チャーリー・スピヴァク楽団で歌ったアイリーン・デイ、そしてジューン・クリスティをフューチャーしたスタン・ケントン楽団等、多くのヴァージョンが、1945年のヒットチャートを賑わしていた。もっとも収益の多かった曲はなにか、と新聞記者に聞かれたとき、カーンはこの曲を挙げたという。70年近く経った今でも当時ほどではないが、録音は続いている。まさに「Long Time」の曲といえる。

 ♪Kiss me once, then kiss me twice Then kiss me once again It's been a long, long time・・・・コーラスの歌い出しをそのままジャケットにしたのは、イギリスのシンガー、イヴ・ボスウェルの「The War Years」だ。英国のレーベル「Parlophone」から「Sentimental Eve」のタイトルでリリースされたものだが、アメリカで発売するにあたってタイトルもジャケットも変更している。収録されているのは、戦時中にヒットしたラヴソングが中心なので、米国盤のほうが自然な形だ。声質も郷愁を誘う優しいもので、情感を込めて丁寧に歌っている。ラヴバラードの良し悪しは感情をどこまで移入できるかで決まる。

 1945年に日本で流行った曲といえば「同期の桜」や「ラバウル小唄」という軍歌で、焼け跡に明るい歌声が響き渡ったのは翌1946年の「リンゴの唄」だ。物のない時代に30万枚も売り上げたというから、並木路子の弾む声に明日への希望を見出したのだろう。来る8月15日に69回目の終戦記念日を迎えるが、その日は同時に「戦没者を追悼し平和を祈念する日」でもある。戦勝国も敗戦国も望むのは平和だ。
コメント (6)
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