デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

或る日、エサ箱を漁りながらルー・マシューズを聴いた

2014-08-17 18:16:45 | Weblog
 先日、中古レコード店からこの時期恒例のセールの案内が届いた。時々覘いているので大きく箱の中は変わらないものの、たまに掘り出し物もあるので見逃せない。ドアを開けると同時に聴こえてきたのは「A列車」のエンディングだ。次の曲も心地良いピアノで、新入荷のエサ箱漁りもサクサクと捗る。う~む、これといったものがない。気になるレコードもないわけではないが、「札幌価格」だ。

 次の曲がかかったとき、おや?と手が止まった。「Golden Earrings」だ。トリオだがブライアントではない。強弱がはっきりしたピアノで、アドリブの展開もメリハリはある。誰だろう?と、ひとりブラインドフォールドを楽しんでいるうちに曲は終わり、次は「My Funny Valentine」ときた。ベースのイントロからいきなりアルトがメロディを吹き始める。音色とフレーズの手癖から直ぐにマクリーンと分かったものの、ピアニストは謎のままだ。降参して店主に尋ねる。CDですよ、と申し訳なさそうに出してくれたのは、ルー・マシューズだ。マンハッタン・ジャズ・クインテットのルー・ソロフとデヴィッド・マシューズを合わせたような名前だが不勉強のため知らない。

 山口弘滋氏のライナーノーツによるとこれが記念すべき初リーダー作という。1997年録音時、51歳の遅咲きだ。もともとはクラシック畑で、70年代のほとんどを空軍の音楽隊で過ごし、除隊後リナ・ホーンやナンシー・ウィルソンの伴奏ピアニストを務めている。1987年にはナンシーのコンサート・ツアーに同行して来日もしているそうだ。そのキャリアが示す通り、次のトラックのサド・ジョーンズ作「A Child Is Born」では見事なバラードを披露している。ピアニストに限らずジャズプレイヤーは、バラード演奏で技量や歌心の資質が問われるといわれるが、全くその通りだ。

 このアルバムは「黒い瞳のナタリー」のタイトルが付いている。ナタリーといえば日本でも人気があるフリオ・イグレシアスのヒット曲だ。帯には「ポスト・ケニー・ドリュー登場」とある。選曲は前述の通り日本人好みのスタンダード・オン・パレードだ。おそらくこの情報だけではエロ・ジャケットが売りのあのレーベルかと思い聴く気にならないだろう。当たり前のことだが、ジャズは聴いてみないことにはわからない。
コメント (8)
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