デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

内容最高、音最悪の復刻盤、バーニー・ケッセル On Fire

2015-08-16 17:56:26 | Weblog
 さて、このバーニー・ケッセルの「On Fire」を見て何を思われただろうか。「長年探し歩いているが、一度もエサ箱で見たことがない」、「ようやく見付けたが、手の出るようなki金額ではなかった」、「大枚を叩いて買った」とコレクター諸氏は仰るかもしれない。1974年にSJ社から発売された「幻の名盤読本」に掲載されているレコードだ。今ではCDで簡単に聴けるが、当時は珍しい1枚だった。

 チープなジャケットで、同書で紹介されなければ中古レコード店の正面に飾られていたところで誰も見向きもしないが、演奏内容が素晴らしいことと、Emerald という超マイナー・レーベルの希少性から注目を浴びることになる。このレーベルの親会社はビートルズのプロデュースで知られるフィル・スペクターが興したフィレス・レコードで、Emeraldのジャズレコードはこれ1枚というのもコレクターの蒐集欲を煽る一因だった。数あるケッセルのアルバムでも5本の指に入るほどの内容で、これがもしコンテンポラリーからジャズの香りがするカヴァーで出ていたならケッセルの評価も人気ももっと上がっていたと思う。

 1965年にハリウッドのジャズクラブ「PJ’S」でライブ録音されたもので、ジェリー・シェフのベースとドラムのフランキー・キャップのサポートを得て活き活きとしたソロを聴かせる。テクニックを駆使した「Slow Burn」で始まり、「いそしぎ」や「リカード・ボサノバ」というライブ定番のポピュラーな曲をはさみ、次は味わい深いメロディの「Who Can I Turn To」をじっくり聴かせる。そしてラテンタッチの「One Mint Julep」でしめるというプログラムだ。「PJ’S」にレギュラー出演しているラテンジャズ・ピアニスト、エディ・カノのリスナーに配慮した選曲は心憎い。

 このレコードが復刻されたのは80年代の初めで、それはそれは酷い音だった。米盤なら所謂、風邪ひき盤と呼ばれるプレスミスも珍しくないが、徹底した品質管理の日本で新品のレコードからノイズが出ることなどあり得ない。マスターテープが行方不明でディスクからダビングしたことによるものだが、買ったばかりのレコードを返品する騒ぎもあったという。購入者は烈火のごとく怒ったとか。「On Fire」だけに。

コメント (6)
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