「俺が理想とするドラマーはトニーとディジョネットだよ」と言ったのは2月24に亡くなった辛島文雄だ。2007年、ライブ終了後の打ち上げで、メンバーの若いベースとドラムを叱咤激励するうち出てきた名前である。1980年から6年間ジャズマシーンに参加していたことからエルヴィンだろうと勝手に決めていたので意外だった。重量感よりスピードを求めていたのかも知れない。
72年に大徳俊幸の後任としてジョージ大塚のバンドに迎えられたときから注目を浴びたピアニストだ。WHY NOT から出た初リーダー作「ピラニア」は鈴木勲とジミー・ホップスという名手が脇を固め、新人をサポートしていた。それに応える辛島のピアノは鍵盤を壊すかと思うほどエネルギッシュだ。次作はTBMの「ギャザリング」で、こちらは親分のジョージ大塚が参加している。ともにオリジナル曲とスタンダードを程よく配した正統派のピアノトリオだ。録音は75年と77年で、猫も杓子もフュージョンに染まっていた時代にこのスタイルとなれば拍手も大きくなる。
数あるリーダー作から「It Just Beginning」を選んだ。録音した2003年当時、ベストメンバーといえる井上陽介と奥平真吾がしっかり支えている。トップの「You And The Night And The Music」に「All Of You」、「My Funny Valentine」、「Un Poco Loco」という有名曲をストレートに演奏しているのが実にいい。テーマを大きく崩したり、いきなりアドリブという手法も面白いが、美しいメロディは基本的に美しくというのが持論なのでど真ん中に響く。特に持ち味が出ているのは、コルトレーンがポール・チェンバースに捧げた「Mr.P.C.」で、恐ろしいほどのスピードで一気に攻める。これぞ辛島だ。
「日本は集合時間に遅れても待ってくれるが、向こうはそうはいかない。遅れたら置いていかれる。知らない町に独りだぜ。それもジャズなんだ。すべからくジャズなんだよ」とエルヴィンのツアーの想い出を話してくれた。本場のジャズはそれだけ厳しいということだ。日常の全てがジャズだったピアニスト。あのスピードをもう一度味わいたかった。あまりに早すぎる。享年68歳。合掌。
敬称略
72年に大徳俊幸の後任としてジョージ大塚のバンドに迎えられたときから注目を浴びたピアニストだ。WHY NOT から出た初リーダー作「ピラニア」は鈴木勲とジミー・ホップスという名手が脇を固め、新人をサポートしていた。それに応える辛島のピアノは鍵盤を壊すかと思うほどエネルギッシュだ。次作はTBMの「ギャザリング」で、こちらは親分のジョージ大塚が参加している。ともにオリジナル曲とスタンダードを程よく配した正統派のピアノトリオだ。録音は75年と77年で、猫も杓子もフュージョンに染まっていた時代にこのスタイルとなれば拍手も大きくなる。
数あるリーダー作から「It Just Beginning」を選んだ。録音した2003年当時、ベストメンバーといえる井上陽介と奥平真吾がしっかり支えている。トップの「You And The Night And The Music」に「All Of You」、「My Funny Valentine」、「Un Poco Loco」という有名曲をストレートに演奏しているのが実にいい。テーマを大きく崩したり、いきなりアドリブという手法も面白いが、美しいメロディは基本的に美しくというのが持論なのでど真ん中に響く。特に持ち味が出ているのは、コルトレーンがポール・チェンバースに捧げた「Mr.P.C.」で、恐ろしいほどのスピードで一気に攻める。これぞ辛島だ。
「日本は集合時間に遅れても待ってくれるが、向こうはそうはいかない。遅れたら置いていかれる。知らない町に独りだぜ。それもジャズなんだ。すべからくジャズなんだよ」とエルヴィンのツアーの想い出を話してくれた。本場のジャズはそれだけ厳しいということだ。日常の全てがジャズだったピアニスト。あのスピードをもう一度味わいたかった。あまりに早すぎる。享年68歳。合掌。
敬称略