デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ドイツのサラ、インゲ・ブランデンブルグを聴く

2015-04-05 09:18:28 | Weblog
 中古レコード店のエサ箱、と言ってもCDなので棚だが、漁っていて「オッ!」と声を上げた。インゲ・ブランデンブルグの「It's All Right with Me」だ。ディスク・ガイドでジャケットは知っていたものの、CDサイズとはいえ見るのは初めてである。ドイツCBSのオリジナル盤は軽く10万円を超える激レア・レコードで、ドイツ盤のヴォーカル・アルバムではSABAのエルジー・ビアンキ「The Sweetest Sound」と並んでマニア垂涎の的だ。

このアルバムはインゲの代表作だが、ギュンター・ハンペルの初録音も記録されていることで価値を上げている。選曲は「Round Midnight」、「Summertime」、「Falling In Love With Love」という定番からジョニー・グリーンの「Out Of Nowhere」、映画「ショー・ボート」のナンバー「Lonesome Road」という地味ながら味わい深いものまで幅広い。意表を突くのはトップで、ロリンズ作の「Valse Hot 」をスキャットで歌い始め「C'est La Vie」をはさんで、元のメロディで終わる仕掛けだ。やや太い声が、スウィング、ドライブ、グルーブの全てを迫力あるものにしている。

 圧巻はアルバムタイトルの「It's All Right with Me」で、オランダのドラマー、ピエール・クルボワとのデュオだ。クルボワといえば1970年のJ.R.モンテローズ「Body And Soul」や、1972年のマル・ウォルドロン「A Little Bit of Miles」で変幻自在なドラミングをみせていたが、ここでもインゲの高速ヴォーカルに丁々発止と渡り合う。録音は1965年で、この時点で早くもフリーに傾倒していたのだろう。僅か1分52秒の演奏だが、ジャズヴォーカルの面白さ、インプロビゼーションの醍醐味を味わえる。インゲが、「ドイツのサラ・ヴォーン」と謳われたのをこの耳で確認した。

 ドイツに限らずヨーロッパのジャズレコードはその文化の違いからプレス枚数が少ないうえ、日本では売れないことから輸入数も限られていた。近年は欧州ジャズのブームで広く聴かれるようになったが、黒人ジャズ至上主義の60~70年代のジャズ喫茶ではかかる以前に持っている店もない。このインゲのようなヨーロッパジャズの名盤はまだ眠ったままのものある。
コメント (10)
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