デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

一件落着、ローラ・オルブライトを聴こう

2016-04-17 09:12:04 | Weblog
 アメリカで1958年から放映されたテレビ・ドラマ「ピーター・ガン」は元祖私立探偵物として知られる。その当時、ドラマのBGMといえばオーケストラが主流だったが、ジャズのコンボ演奏を使ったことで注目された。その後「サンセット77」をはじめハードボイルド物はジャズがバックというのがスタイルになっている。テーマ曲はヘンリー・マンシーニが有名になる前の作品だが、傑作として名高い。

 一件落着すると主人公はジャズクラブで寛ぐのだが、ここで歌っているシンガーが主人公の恋人という設定だ。これは現在の日本の刑事物にも踏襲されていて、藤田まことや水谷豊が小料理屋でママ相手に世間話をする原形といっていい。そのシンガー役がローラ・オルブライトで、女優としてはその後「危険がいっぱい」でアラン・ドロンと共演しているし、「0011ナポレオン・ソロ」にも出演している。歌手としてはこのドラマで知り合ったマンシーニの協力のもと制作した「Dreamsville」が人気盤だが、女優として売れる前の57年に録音した「Lora Wants You」も忘れがたい。

 「トムとジェリー」でお馴染のディーン・エリオット編曲指揮のオーケストラをバックにジャケットからも漂う妖艶なハスキーボイスで迫ってくる。甘い代表「Candy」や「All Of You」、「He's My Guy」、そして特にいいのが「I've Got A Crush On You」 だ。ガーシュウイン兄弟の曲で、速いテンポで歌うことを想定して書かれたようだが、リー・ワイリーがバラードで歌ったことからその唱法が定番になった。ローラもゆったりとしたテンポで丁寧に歌い上げる。「あなたに首ったけ」という邦題が付いているが、「Crush」という本来持つ熱狂的な意味合いも伝わってくる歌唱といえよう。

 「ピーター・ガン」が日本で放送されたのはテレビ普及率が60パーセントの1961年だ。今の世代には想像も付かない白黒テレビである。昭和でいうと36年で、「上を向いて歩こう」や「君恋し」、「銀座の恋の物語」がヒットしている。アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズが初来日したのもこの年だ。決して物が豊かな時代ではなかったが、パブリカが巻き上げる土煙が懐かしい古き良き昭和であった。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする