『驚愕の曠野 自選ホラー傑作選2』(筒井康隆 新潮文庫)
短編集だが、ほぼ中編の表題作に唸った。俺のとらえかたではホラーではない。ホラーは解放のファンタジーだから。たぶん、仏教用語からアレンジした著者の造語だろうが、奇天烈な神仏や魔物、人名が頻出する。異形が棲む魔界で終わりなき飢えと苦痛にのたうつ人間の叙事詩であり、書物が言葉が文字が跡絶え、人間が人間でなくなっていく記録でもある。読後、俺たちは<世界>という魔界の一段階の住人であることに頷く。魔界の魔物もまた輪廻転生した人間であり、魔界には人間しかおらず、すなわちそこは人間世界であること。人間を殺し喰らいながら、その哀しみに涙するかつて人間であった魔物と、殺され喰らわれた嫌な記憶を残したまま、<界>を下がりながら魔物や人間に転変していく「人間」。不死と不生の境界に佇む幽霊になったような気分にさせる。
短編集だが、ほぼ中編の表題作に唸った。俺のとらえかたではホラーではない。ホラーは解放のファンタジーだから。たぶん、仏教用語からアレンジした著者の造語だろうが、奇天烈な神仏や魔物、人名が頻出する。異形が棲む魔界で終わりなき飢えと苦痛にのたうつ人間の叙事詩であり、書物が言葉が文字が跡絶え、人間が人間でなくなっていく記録でもある。読後、俺たちは<世界>という魔界の一段階の住人であることに頷く。魔界の魔物もまた輪廻転生した人間であり、魔界には人間しかおらず、すなわちそこは人間世界であること。人間を殺し喰らいながら、その哀しみに涙するかつて人間であった魔物と、殺され喰らわれた嫌な記憶を残したまま、<界>を下がりながら魔物や人間に転変していく「人間」。不死と不生の境界に佇む幽霊になったような気分にさせる。