コタツ評論

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アリ死す

2016-06-05 22:47:00 | 政治

若き日のカシアス・クレイとサム・クック

カシアス・クレイからモハメド・アリに改名したことで、黒人奴隷の子孫という出自と白人所有者の名前が与えられたという由来を世界に知らしめた。当時まだ(今もまだ)、アメリカでは黒人差別が続いていることへ、たった一人で抵抗運動をはじめたといえる。

では、モハメド・アリは? キリスト教からイスラム教へ改宗したから、入信したネイション・オブ・イスラムから与えられたイスラム名を名乗ったのだろうか。それなら、個人の信仰の問題にとどまる。そうではなく、ヒンズー教徒が厳格なカースト制の身分差別から抜け出すために仏教徒に改宗するように、「アメリカン・ドリーム」や「アメリカン・ウエイ・オブ・ライフ」、あるいは「アメリカの息子」という「アメリカ信仰」から脱するためだったのではないか。

今日、カシアス・クレイという名前は忘れられ、アリはアリとなった。黒人ボクサーにしては長生きしたから、はじめからカシアス・クレイという名前を知らない世代が多数を占めるようになった。それだけのことかもしれない。あるいはそれ以上のことかもしれない。反差別のアイコンをも脱して、「ただの」モハメド・アリとして生きてみせたのではないか。

パーキンソン病を患い、手足だけでなく会話も不自由になったから、得意の弁舌をふるえず軽やかな身のこなしも披露できず、ただぼんやりとそこにいるだけの人になった。それだけのことなのかもしれない。正視に堪えない無残な姿ではあるが、それでもアリは「障碍者」の姿を晒し続けた。それも、ただ、食い扶持を稼ぐためだったのかもしれない。

しかし、同時に、そこに、彼のひとつの意志を見出すのは無理だろうか。

少なくとも、モハメド・アリなかりせば、バラク・フセイン・オバマはあり得ただろうかと想像してみるくらいは許されると思えるのだ。

モハメド・アリがまだ若く元気なころの珍しい歌声です。あきらかに「盟友」サム・クックの歌唱から影響を受けています。

"Stand by Me" sung by Muhammad Ali


おまけに、ゴスペルグループのソウル・スティーラーズ時代のサム・クックの「スタンド・バイ・ミー」です。曲名は同じでも、違う曲ですが。

Stand by me - SAM COOKE &The soul stirrers


(敬称略)