コタツ評論

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韓国映画から学べよ日本映画界

2016-10-02 01:55:00 | レンタルDVD映画


韓国映画は男優の宝庫です。当ブログでは、「オールドボーイ」や「ルーシー」「悪魔を見た」のチェ・ミンシュクを一押しにしてきましたが、「ベテラン」を観て、ファン・ジョンミンを二押しにすることに決めました。

新しき世界」で頭を掻くところを股間を痒くような下品な愛嬌にあふれるマフィアボスを好演したファン・ジョンミンです。

「ベテラン」の監督は、韓国北朝鮮の最前線のスパイ戦を疾走するようなカメラアイで追った「ベルリンファイル」のリュ・スンワン。この映画も「御代は観てのお帰りに」とお勧めできる作品でしたが、「ベテラン」は一転して痛快にしてコミカルな警察映画でした。

さて、日本の大学進学率52%(2016)に対し、韓国の大学進学率はなんと81%(2014)。韓国の受験戦争の過熱ぶりは日本でも話題になるほどで、たとえば、大学受験日には受験生の会場入りを妨げないよう、官公庁や大企業は午前10時出勤になっていたり、それでも遅れそうな受験生を白バイが先導するパトカーで会場に送ったりしています。

日本でも、「一流大学に入って一流企業に就職を」は大学進学の一般的なモチベーションですが、韓国の場合、「ソウル大学に入って、サムスンや現代グループなど財閥系企業に就職」しなければエリート失格なのですから、日本とは比較にならない狭き門といえます。

待遇も格段に違います。財閥系企業のサラリーマンの平均給与はそれ以外の企業のサラリーマンの7倍といわれ、現代自動車の社員の平均年収は日本円で1000万円近くにもなり、世界一の自動車会社トヨタの社員をはるかに上回っています。

それもそのはず、一時は韓国の10大財閥の売り上げ高が韓国のGDPの76.5%(2011)を占めたのですから、財閥系企業の圧倒的な存在感と絶大な影響力は、ちょっと日本では想像することが難しいかもしれません。

「ベテラン」のドチョル刑事(ファン・ジョンミン)の正面敵はこの財閥です。財閥3世の乱暴狼藉とその隠蔽に暗躍する財閥の横暴を描いた、「財閥映画」ともいえます。それも「実録・財閥企業」ではないかと思えるほど、「事実は小説より奇なり」のエピソードが満載です。

たとえば、財閥当主が出席する幹部会。韓国と世界から集まった数百人の幹部たちに、会場入り口で紙おむつが配られます。当主の出席中にトイレ中座する失礼がないよう、あらかじめ身につけるためです。

「大韓航空ナッツリターン事件 」で知られたように、財閥社員がエリートなら、幹部は超エリート、財閥当主とその血脈は雲上人にもなります。

信じられないことですが、「ベテラン」の財閥3世の乱暴狼藉にも実話が背景にあります。財閥SKグループの幹部が、賃上げ要求したトラック運転手を金属バットでボコボコにした事件です。

経済先進国韓国のタブー、暗部、恥部をこれでもかと暴露して、深刻な社会派ドラマではなく痛快娯楽活劇映画にしてしまう韓国映画界の底力に唸りました。

(敬称略)