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検察庁は守られた!

2020-05-19 09:04:00 | 政治
検察庁法改正の目的は、「与党の政治家の不正を追及させないため」と批判していた元ロッキード検事・堀田力弁護士は、昨日の「採決見送り」を受けたANNニュースの電話インタビューに対して、以下のように答えた。

ANNニュース


採決見送りについては「とりあえず、よかった」、秋の臨時国会で継続審議となったことは、「これほど多くの国民が法案の問題点を理解されたのは近年稀なこと」だったので、「政府としては取るべき態度はひとつ」、「法案の定年延長部分の廃案しかないと私は思っています」。

最後に、「法改正もせずにすでに定年延長されている黒川検事長」については、こう語った。

これはどうみてもおかしい行政措置と法解釈だと思いますし、そういう法解釈が今後も生き残ったのでは、結局、今度の法改正が通ったのと同じになりますよね。閣議決定で好きに定年を伸ばせるという、これはあってはならないことです。黒川さんは私もよく知っていて能力も素晴らしいんですが、やはりここは重要な責務にいる自分の職務を自覚して遅まきながらでも、「(定年延長を)受けない」という態度をしっかり表明してほしいなと。黒川さん自身も最後まで検察のために頑張ったというすっきりした気持ちになれるのかなあと。

堀田力弁護士は立派な人らしいが、「最後まで検察のために頑張った」が気になる。「最後まで国民のために頑張った」とはいわないのだ。もちろん、「検察庁の独立性を保つ」ことが民主制を担保し、国民のためであるということだろう。にしても、国民とは間接的な関係なのである。

もうひとつ、気になることがあった。堀田力弁護士も名を連ねる、松尾元検事総長ら36人の検察OBによる検察庁法改正案へ反対する意見書には、それぞれの名前に続いて(司法修習第〇期)と記されている。堀田さんのように、検事を退官した後は弁護士となった人が多数だろうに、(弁護士)などの現在の職業や肩書を書かずに、司法修習年次で統一したわけだ。

検事総長や検事長、高検や地検、特捜部など、現役時の役職や職務とは関係なく、若き司法修習生として検事を志望した初心に立ち戻って、今回の検察庁法改正に反対するという趣旨だろう。検察トップ人事に介入しようとする政権に対して、やはり「検察一家」の求心力を盾にしようとしたとの印象は否めない。

検事総長の任命権は内閣にあるが、検察庁内部からの推薦を追認することがこれまでの人事慣例だった。次期総長も黒川検事長以外でほぼ決まっていた。もし、黒川検事総長が誕生し、法改正によって、さらにその定年まで内閣の意向で延長できるようになれば、検事総長人事は完全に検察庁から離れて内閣が握ることになる。

検事総長人事を突破口にして、やがて検察庁全体が政権与党の軍門に下ることになるという危機感から、「検察一家」を代表してOBたちの法案反対意見書につながった。そんな国民生活から遊離した役所人事の攻防という見方も成り立つ。

そうではなく、「検察の独立性」をめぐる問題だと格上げするなら、「検察の透明性」が同時に担保されねばならない。だが、それは今後の課題のようだ。

「(検察について)国民にオープンに議論できるような組織に成熟していっていただければ、信頼が厚い組織として成長していくのではないか?」(松尾邦弘元検事総長)https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202005150000482.html

今回、「これほど多くの国民が法案の問題点を理解」しようと努め、反対や批判の声を上げたのは、いうまでもなく、検察庁という役所や検察官という職務を守るためではない。規範性なき憲法上の三権分立を守るためであり、卑近にいえば安倍政権の恣意的な人事介入を食い止めるためである。

国民はつねに、司法・立法・行政の三権力に、直接に晒されている被(非)権力者である。国民主権など憲法上の画餅にしか過ぎない。そうした非対称の現実に、「新コロ」を契機として、否応なく気づかされた。

たとえば、個人の自由意志にあるはずの「自粛」を役所から「要請」される、自宅待機を休業を閉店を求められるが、その補償はない。涙金が出るだけ。それらに対する「遅まきながら」の反発と怒りが、「間接的」に作用したのが、今回の「検察庁法改正に反対する」声の「盛り上がり」ではなかったか。

したがって、「採決見送り」に安堵するのは、堀田さんのいう通り時期尚早であるだけでなく、これに少しでも満足するなら、国民主権がなおざりにされてきたという根本的な問題をおざなりにする間違いを犯すことになろう。お上に民の声が届いたでは、黄門様である。

とりあえず、検察庁と検察官への市民監視の仕組みづくりは、別途、喫緊の課題である。起訴・不起訴の権限を独占する検察官への監督責任を現内閣に任せられず、現行の検察審議会が有名無実だとしたら、それに代わる新たな制度や機関が必要だろう。

99%の有罪率という北朝鮮のような、検察官と裁判官が一体という司法体制は一日も早く「改正」されねばならない。この「改正」に対して、検察庁をはじめとする、いかなる強大な抵抗勢力が立ちはだかろうと。

奇形化した三権分立というリバイアサンの一隅に風穴が空いたとき、国民主権に一歩近づくのである。

規範性なき日本国憲法:
司法修習生は、憲法を絵空事として学ぶ伝統があるそうだ。

(止め)