コタツ評論

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今週の拾得物 心壁論

2020-05-29 20:04:00 | ノンジャンル
スティーブン・キングの文章読本『書くことについて』について書こうと思っていたのですが、相変わらずかんじんの本が家庭内行方不明のまま。しかたなく、日英語を比較する記事をネット検索していたら、「心壁論」を説くとても興味深いブログに行き当たりました。

「心壁論」と、論理構造の解明・組合せ論的整理術を「心の基軸」 とすることの本質的重要性 (21)
https://plaza.rakuten.co.jp/shinichi0329/diary/201711210000/

「心壁論」とは(しんぺきろん)ではなく、(こころ(ある)かべろん)」と読むそうです。冒頭に結論(自らの主張)を簡潔に書いています。

・異質な者同士の間に「壁」を設定することは重要ですが、一方で、その「壁」を通り抜ける力のある「心」も重要です。

以下、記述のほとんどは、結論の前段の「壁」について、その解説と有用性に費やされています。

十分に異質な者同士の間に適切な「壁」を設定しないと、当事者の手に負えない複雑度の爆発が発生し、当事者同士の間の認識解像度が著しく低下することによって通常の人間らしい社会が破綻してしまうような状況に追い込まれてしまいます。

「十分に異質な者同士」とは、筆者がアメリカで育ち、学んできた体験から、日本語と英語、一神教と多神教の異質性を通して語られます。

さて、異質な者たちが「当事者」として席を同じくしたとき、複雑度が増すのはわかるのですが、認識解像度が低下するというのはどういうことなんでしょう。検索してみたら、わかりやすい解説がありました。https://note.com/y_uemizu/n/nf78b8e892581

異質なうえに、洞察力を欠片も発揮できない人間同士なら、そりゃ収拾がつかなくなります。だから、「壁」が必要だというのです。しかし、「壁」とはもちろん、見えるものを見えなくする遮蔽物であり、ほとんど「障壁」と置換できそうなほど、負のイメージをまとっています。

たとえば、かつて東西ドイツを分断した「ベルリンの壁」があり、最近ではトランプ大統領がメキシコを経て移民流入を阻止するため、「国境の壁」を建設しようとしています。村上春樹に「壁と卵」スピーチもありました。「壁(権力や権威)にぶつかって潰れる卵(人間)の側に立ちたい」と訴えるものでした。

物理的な建築物ではない心理の「壁」も、たいていは否定的に扱われます。たとえば、「心に壁をつくるな」「自分の壁を破れ!」など、「壁」はないほうがよくて、あるとすれば、壊したり乗り越えたりすべきもののようです。そういえば、「バカの壁」というベストセラーもありました。

余談ですが、同質性が高いといわれている日本社会においても、「当事者同士の間の認識解像度が著しく低下することによって」、「人間らしい社会が破綻してしまうような状況」が確実に広がっている気がします。

23日にSNSの中傷を苦にして自殺したとみられる女子プロレスラーの木村花さんなど、この「当事者同士の間の認識解像度が著しく低下」した結果のように思われます。中傷を書き込み、または「いいね!」と賛同した「当事者」たちは、公表されて厳しく罰せられて然るべきですが、この「心壁論」を読むと、「壁」を認めない、「壁」のない人たちに思えてきます。

筆者は、適切な「壁」の設定は重要だとした上で、「壁」をなくしたときに起きる混乱と破綻の例として「バベルの塔」に遡り、専門分野である難解な現代数学理論を解説しつつ、パソコンのC・Dのドライブ区分のような「壁」を具体例として示し、水村美苗とカズオ・イシグロという二人のバイリンガルを「言語の壁」からとらえ直し、英語の定冠詞・不定冠詞とSVO:SOV型語順などのいわゆる「英語の壁」の無意味性を指摘し、不適切に設定された日本人の「心の基軸」たる「日米機軸」という高く厚い「壁」を批判し、北朝鮮の核戦略がもっとも「認識解像度」が高いと評価しています。

自らの体験と知見を軸にして、多様なトピックを縦横無尽に考察したとても優れたコラムの一篇です。

ちなみに筆者の望月新一氏はこんな人です。
https://news.yahoo.co.jp/articles/9816433d3f22c7f87a8fa0aeeba0d09438d33b8c

(続く)

人種差別大国アメリカ

2020-05-29 05:43:00 | ノンジャンル
「黒人は生まれながらにして有罪なんだ」(映画『黒い司法 0%の奇跡』より)。

人種差別制度や政策が表立って生き残っているはずがないアメリカですが、人種差別主義者はいまも少なからずいるようです。それも保守的とされる南部諸州やスモールタウンなどではなく、民主的といわれるNYなど大都市の中産階級の人々の間にも珍しくないと思わせる事件です。

「犬をひもに繋いで」と求めた黒人男性を、白人女性が警察に通報。「アフリカ系アメリカ人の男に脅されています」
https://www.huffingtonpost.jp/entry/white-woman-calls-cops-on-black-man-over-dog-leash_jp_5ecdeb12c5b6ed2bae792bfe?utm_hp_ref=jp-homepage

「犬を繋いでください」と注意した黒人男性がバードウォッチング団体の役員も務めるよく知られた人で、激高した女性にも平静な態度を変えず、さらに録画して自衛していたから事なきを得たようなものです。

そうした偶然がいくつか欠けていれば、駆けつけた警官が興奮してまくしたてる白人女性に味方して、黒人男性を制圧にかかったでしょう。あるいは、警察に通報された時点で、たいていの黒人男性なら、その場を逃げ出したかもしれません。

「自分にとって警察は身を守ってくれる存在だったが、この国にはその贅沢を受けられない人がいる人たちがたくさんいるということに気付かされた」

残虐非道な人種差別の歴史を負っている、なおかつ現在も暗黙裡に人種差別を続けている。白人側はそれを意識無意識に知っているから、何かの拍子に黒人に出くわすと、(復讐されるのではないか)と心底から怯える。恐怖と恐怖の出会い、そんな悪循環に陥っているように思えます。

「息ができない」黒人男性が警察官に膝で首を押さえつけられ死亡。「助けてあげて」周りは訴えていた
https://www.huffingtonpost.jp/entry/george-floyd-death-minneapolis_jp_5ecdb87bc5b6ed2bae78dc19?ncid=other_huffpostre_pqylmel2bk8&utm_campaign=related_articles

ジョギング中の黒人男性が殺害された事件、動画を撮影していた第3の男が逮捕される
https://www.huffingtonpost.jp/entry/man-who-filmed-ahmaud-arbery_jp_5ec74aa9c5b66686597a63e3?ncid=other_huffpostre_pqylmel2bk8&utm_campaign=related_articles

白人女性の警官が黒人男性を射殺、男性は両手を上げていた(動画)
https://www.huffingtonpost.jp/2016/09/21/oklahoma_n_12112758.html?ncid=other_huffpostre_pqylmel2bk8&utm_campaign=related_articles

「犬を繋いで」と注意した男性を警察に通報した女性は、勤務先を即時、解雇されたそうです。日本でも、ファミリーマートだったか、外国人店員に暴言を繰り返す客に対して、以降、入店を断ると貼り紙した店舗がありました。

日本にも在日朝鮮人や韓国人、中国人などに差別言辞を吐く人間が珍しくなくなってきました。言葉で人間を傷つけようとする、殺そうとする人です。行政の罰則や社内規定の解雇要件が必要な段階に入っていると思います。



(止め)