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桐島、部活やめるってよ

2013-02-25 00:58:00 | レンタルDVD映画


桐島、部活やめるってよ(公式サイト)
http://www.kirishima-movie.com/index.html
yahoo映画紹介
http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tyca/id342041/

「アベンジャーズ」の日本公開キャッチフレーズが論議を呼んだことがある。「日本よ、これが映画だ!」と高飛車だったからだ。たしかに、「アベンジャーズ」は傑作だった。だが、「桐島、部活やめるってよ」なら、胸をはってこう云える。「世界よ、これが日本映画だ!」と。ついでに、「ハリウッドよ、さすがにこれはリメイクできまい」ともつけくわえておこうか。まぎれもない傑作。ときめきながら場面に見入るなんて、ずいぶん久しぶりの経験だ。観るときはひとりに限る。惚けた顔になっていること間違いないからだ。

部活映画である。ただし、「帰宅部」もある。たぶん、この学校は都市部の公立高校だ。運動部の代表はバレーボール部である。キャプテンで運動部全体のスター選手のような桐島がブカツをやめることが発端になる。文化部の代表は映画部だ。グラウンドや体育館を占有する運動部をよそに学校の片隅でしこしこ8mm映写機を回して、ゾンビ映画を撮っているオタクたちだ。吹奏楽部も出てくる。部長は帰宅部の一人に思いを寄せ、彼らが桐島を待ちながらバスケットに興じる様子を見下ろせる、校舎の屋上でいつもサックスの練習をしている。映画部の監督は、クラスメートの女子バトミントン部員に惹かれるが、彼女は帰宅部のちゃらい男子との交際を隠している。

つまり、青春映画である。ただし、これまでの青春映画を否定する青春映画だ。たとえば、加山雄三の若大将シリーズを観たことはあるだろうか。スポーツが得意で、友だちが多く、キャンパスでいちばんの美女を恋人にして、ライバルとの競争に勝ち抜いていく、そんな青春映画を観たことはあるだろう。主人公が教師だろうと不良だろうとさえないオタクだろうと、このパターンに変わりはない。正確にいえば青春スター映画である。しかし、「桐島、部活やめるってよ」とみんなが噂している当の桐島は不在のまま。加山雄三は現れず、青春スターは出てこない。加山雄三の若大将には、田中邦衛の青大将という引き立て役がいたように、重要だが脇役やちょい役、声援を送るだけのその他大勢がそこにいるだけ。

だから、群像劇である。ただし、「仁義なき戦い」のように広島暴力団の興亡といった骨太の戦後史に血肉の彩りをあたえるための群像ではない。「桐島、部活やめるってよ」と噂する人々が桐島の記憶や人となりを語りだすわけでもなく、ただ、学校に出てこない、電話に出ない、メールを返さない、とやきもきするだけ。筋らしい筋もない。同じ高校に通い桐島を知っていることが共通しているだけで、彼らは何も共有していない。映画部などは、「桐島、桐島って、お前らいったい何なんだ!」と怒鳴るくらい、桐島さえ関係していない。最初から最後までバラバラに思い考え、行き当たりばったりに動く。これまでの集団映画や群像劇とは違い、誰にも何ものにも群がることがない。

ごちゃごちゃするばかりでわかりにくいかもしれない。すまない。しかし、この映画はとてもわかりやすい映画だ。この高校生たちのなかに、きっとあなたがいるからだ。この映画の主人公はわたしだ。そう思わせてくれる。そして、他の人々もそれぞれが主人公なのだ。そうも感じさせてくれる。そう、桐島なんて、最初からいないし、これからも出てこない。この学校だけでもたくさんの男子や女子がいるが、声をかけ、話を交わす人はわずかだ。身体がふれあい、ふれあわず、心がかよい、かよわず、彼らは彼らの世界で生きている。わたしたちがこちらの世界で生きているように。わたし以外のわたしを感じさせてくれる、そんな経験をしたといえる奇跡的な映画である。こんな映画は日本でしかつくれないだろう。ガラパゴス万歳!
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