2009年、フィンランド映画。フィンランド・アカデミー外国語映画賞代表作品。
小さな、静かな作品です。
登場人物はたったの三人。
盲目の老牧師、刑務所から恩赦で釈放された元女囚、そして郵便配達人。
BGMも、雨だれのような静かなピアノ曲のみ。
これだけの材料で、これだけ人の心を打つことができるとは。
1970年代のフィンランドの片田舎。
白樺に囲まれた、雨漏りのする粗末な牧師館。
教会を訪れる人はもはや誰もおらず、日曜日のミサも結婚式もない。
引退した老牧師ヤコブと外界とのつながりは、悩みを持つ人から手紙を受け取り、その返事を書くことだけ。
そこに、手紙の代読と返事の代筆の役目を担ってやってきたのは、元終身犯レイラ。
この女が、呆れるほどにふてぶてしい。
鈍重という言葉がピッタリの体格と態度で、ニコリともしない。
神も信じず人間も信じず、誰にも心を開かない。
たったひとつの仕事すらも嫌がり、牧師に来た手紙をこっそり捨ててしまうほど。
やがて牧師への手紙が届かなくなり…
来る日も来る日も、手紙を待つ老牧師。
「人々のために祈ることが使命だと思っていたのに。私はもう必要とされていない。」
とうなだれる牧師に
「だったら祈るのをやめればいい。自分のために祈っていただけでしょ。」
と言い放つレイラ。
なんでももう少し優しくしてあげないの!?と、観ている側にはレイラが憎らしくさえ思えます。
それでも毎日、郵便配達人が来るのを待ち続ける老牧師が悲しい。
そして奇跡が訪れる。
頑なに閉ざされたままだったレイラの心が、ある日静かに溶かされるのです。
手紙などないのに、あるように装って読むふりをするレイラ。
しかし老牧師は、それにすぐ気がついたのでしょう。
静かに席を立とうとするが、その時レイラの口から語りだされた真実とは…
奇跡は、ただ降ってわいたのではない。
牧師ヤコブの真摯さと善良さが、頑なだったレイラの心を溶かしたのです。
そしてそれによって救われたのはレイラだけではなく、老牧師でもあったという奇跡。
悲しい結末ですが、そこには確かな救いがあります。
低予算でも人を感動させることはできるという、見本のような映画です。