Zooey's Diary

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憎しみの連鎖「灼熱の魂」

2012年01月19日 | 映画


カナダ・フランス映画、 ヴェネチア国際映画祭最優秀作品賞。
レバノン出身の劇作家ワジ・ムアワッドの同名戯曲をドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化。
映画を観る理由の一つが、異文化に触れたいということだとしたら
この作品は確実にその願望を叶えてくれます。
イスラム世界では女性の立場は家畜のそれよりも低いとか
レイプされた女性が法的に罰せられる、或いは親族に殺される現実とか
中東における宗教の対立がどれだけ凄惨を極めるかとか
ニュースで見聞きすることはあっても、平和な世界に住む我々にはまるでピンとこない。
それが映画の画面ではこともなげに展開され、
観る側は言葉もなく受け止めるしかないのですから。

カナダのケベック州でアラブ系移民の女性ナワルは発作を起こし、
双子の娘と息子、ジャンヌとシモンに遺書を託してこの世を去る。
それは子どもたちが聞いたこともない、兄と父親を探して手紙を渡せというもの。
二人は当惑しながらも中東に渡り、母親の人生を辿り始める。
それは想像を絶する過酷なものだった…


かつて異宗教の男と恋に落ち、その子を身ごもったというだけで
うら若き娘ナワルは、身内の男に殺されそうになる。
かろうじて彼女の祖母に助けられるが
その祖母も、一族の名誉を汚してくれたとしてナワルをののしり倒す。
赤子を産み落とすや否や、その子は連れ去られ、ナワルも家から追放される。
ここまではイスラム社会にはよくあることでしょうが
(といっても彼女とその家族はキリスト教なのですが)
40年後にナワルの娘ジャンヌが、母の生まれ故郷を訪ねた時の
村の女たちの反応が凄い。
ナワルの名前を出した途端、遠方よりはるばる来たジャンヌをさげすみ、
その女の関係なら歓迎することはできないと追い出してしまうのです。
現代に至ってもなお。

その後キリスト教ゲリラに襲われ、虐殺現場から命からがら逃げ出したナワルは
手放した子どもも殺されたと思いこみ、絶望感からイスラム系テロリストに身を転じる。
敵方のリーダーを暗殺するも、地獄より酷いと言われる刑務所に入れられ、
15年に渡って拷問を受ける。
そこで彼女が受けた拷問とは…
人間はここまで残酷になれるものなのか。
母親の人生を辿るうち、結局自分たちの恐ろしい出自と向き合うことになる二人。


名誉殺人、異宗教間の対立(つまり殺し合い)、幼い子供への洗脳(テロリストとして育てるため)、
拷問、レイプ、近親相姦。
人間の暗部がこれでもかと画面に突きつけられる。
その凄惨さを監督が我々に訴えたかったとしたら
それは成功していますが
そのためにここまで残酷な話を作り上げなくてはならなかったのかという疑問は残ります。
「憎しみの連鎖を断ち切るため真実を知らせたい」というナワルの人類愛は立派ですが
双子の子どもたちに対する彼女の母性愛はどうなのだ?と思ってしまう。
私だったら、あんな恐ろしい秘密は墓場まで持って行くでしょう。
平和なカナダ市民として育った双子は、あの驚愕の真実をかかえてこの先、
まっとうに生きていけるのだろうか…!?

場所や時代ははっきりとは書かれませんが
これはレバノン内戦が舞台であるらしい。
レバノンというのは中東においては珍しく、国民の40%がキリスト教なのですね。]
原題の”INCENDIES”はフランス語の“火事”“感情の爆発、動乱、戦乱”という意味らしい。
「灼熱の魂」とは上手くつけたものです。
あまりにも偶然が重なってでき過ぎの話、という鼻につく点もありますが
それをさし引いても余りある迫力の、壮大な大河物語です。
2時間10分、息をつく暇もありませんでした。
しかしこれ、東京中で日比谷シャンテシネ一館のみの上映です。

「灼熱の魂」 http://shakunetsu-movie.com/pc/
コメント (6)
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