
やたらと評判のよいミュージカル映画「レ・ミゼラブル」を観て来ました。
子どもの頃に原作「ああ無情」を繰り返し読んで泣き、
遥か昔ではあるが、ブロードウェイでミュージカルも観た私にどう映るか、
些か不安ではあったのですが…
一切れのパンを盗んだために19年間投獄された男ジャン・バルジャンの波乱に満ちた生涯。
「英国王のスピーチ」のトム・フーパー監督。
今日現在でも、劇場は満席状態。

結論から言えば、やはり多少の不満はありました。
話があまりにも単純化されすぎ。
舞台だとそれは仕方ないと思えるところも、映画だと中々そうはいかない。
あの長い話を2時間半の映像にするのだから、と思おうとするのですが
いかになんでもあのまとめ方はないでしょう?とも。
例えば原作では、コゼットが恋に落ちた改革派の青年マリウスは
もっと早い段階でバルジャンの過去を知り、その為にコゼットを彼から引き離そうとするのです。
その軽蔑していた男が実は自分の命の恩人であったことを知った時、
バルジャンはこの世から旅立って行く。
そのマリウスの驚きと悔恨の思いがラストの大きな山場となるのに
あれではまるで伝わらないのではないかと。
細かいところで、工場を追い出されて生活に困ったファンティーヌが
美しい髪の毛、そして歯を売る場面がありますが、あれは原作では前歯なのです。
映画では奥歯となっていたので、彼女の容貌はそれほど変わらないのですが
前歯を抜かれた女が、いかに惨めな容貌となることか…
人口歯のないあの時代は、それを他人の差し歯として使っていたらしいのです。

そんな小さな不満はいくつもありましたが
それを差し引いても、あの映像と歌の迫力は素晴らしい。
あの時代の貧しい民衆の悲惨な生活は、原作からでは中々想像できないものですし、
あの革命前夜のパリの様子は、舞台からでは読み取れないものです。
そしてミュージカル映画の常識を覆す、録音ではなく生歌で撮ったという事実。
俳優たちの歌唱力にはもう舌を巻くばかり。
アン・ハサウェイの「夢やぶれて」(I Dreamed a Dream)
何百人もの民衆が歌う「民衆の歌」(The People's Song)
エポニーヌが「彼の世界に私はいらない」と歌う「On My Own」
今も耳に残っています。
恋に落ちて喜びに震えるマリウス、
初めて人から恋されることを知って恥じらうコゼット、
マリウスを愛しながらも気にも留めて貰えない悲しいエポニーヌの
三者三様の思いを込めた三重奏もよかったなあ…
それにしてもコゼットを虐待するいかがわしい宿の女将に
ヘレナ・ボナム・カーターが扮していたのには驚きました。
「ハリ・ポッター」「アリス・イン・ワンダーランド」でも酷い役だったのですが
かつて「眺めのいい部屋」では美しい貴族のお嬢様だったのに…