国会可決消費大増税法是非を国民が総選挙で判断
「参議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会」が8月10日、締めくくり総括質疑を行ったうえ、消費増税関連法案を採決し、民主、自民、公明の賛成により可決した。
その後、法案は本会議に上程され、可決された。
野党7会派は参議院に野田佳彦内閣総理大臣に対する問責決議案を提出した。内閣不信任決議案や総理大臣に対する問責決議案は他の議題に優先して審議されるべきことが憲政の常道と言えるものである。
ところが、参議院の議院運営委員会は問責決議案の審議を否決し、問責決議案の採決をせずに消費増税関連法案の採決を行う方針を決めた。
これに反発した野党は、平田健二参議院議長に対する不信任決議案を提出したため、参議院本会議では消費増税関連法案の採決に先立って、平田健二参院議長に対する不信任決議案の審議を行ったが、反対多数で否決された。
これらのプロセスを経て消費増税関連法案が参院本会議で採決され、消費増税関連法案が可決された。
「近いうちに」実施される衆議院総選挙では、消費増税の是非が最大の争点になる。
議会制民主主義の通常のプロセスにおいては、国会における法律案の可決成立は、問題の最終決定を意味する。
しかし、いま論議されている消費増税関連法案については、この原理原則が適用できない。
その理由は、この消費増税法案が民主主義の適正なデュープロセスに照らして、正当性を有していないことにある。
法案を提出した野田佳彦氏や岡田克也氏が属する民主党は、2009年8月30日の総選挙に際して、衆議院任期中の消費増税を阻止することを主権者国民に約束してきた。
本ブログ、本メルマガで紹介してきた野田氏や岡田氏の演説動画がその動かぬ証拠である。
1.野田佳彦氏による2009年7月14日の衆議院本会議演説
2.岡田克也氏による2009年8月11日の千葉県柏駅前での街頭演説
3.野田佳彦氏による2009年8月15日の大阪での街頭演説
を改めてご確認いただきたい。
また、消費税の制度に多くの重大な構造的欠陥があることも見落とせない。
さらに、サブプライム危機以降の世界経済の急激な悪化が日本にも重大な影響を与えてきた事実を見落とせない。
日本政府の財政収支が著しく悪化しているが、その大部分は、サブプライム金融危機以降の急激な景気後退によって生じたものである。
経済学の分析では、このような理由で拡大する財政赤字を「循環的赤字」と呼ぶ。そして、「循環的赤字」を縮小させるには、増税などの「構造的政策」ではなく、景気の回復という「循環的要因の改変」を用いることが必要である。
景気が悪い局面で、増税などの「構造的政策」を実施すると、景気がさらに悪化して、減少させるはずの財政赤字が逆に拡大する。
このことは歴史の事実が証明している。
したがって、現局面では景気回復こそが優先されるべき課題であり、構造赤字への対応は、景気回復を実現した段階で検討するべき事項なのだ。
消費増税亡国論
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このような、民主主義の正当なプロセスを根底から破壊するだけでなく、日本経済の適切な運営に根本から反する消費大増税政策を、民意を無視して強硬に決定することは、日本の憲政史上に重大な汚点を残す蛮行と言わざるを得ない。
その蛮行が実行された。
NHKをはじめとする御用放送は、国会で法律が成立したことをもって、国家としての最終決定であるかのような報道を展開するが、これが大間違いであることをはっきりと認識しておく必要がある。
繰り返しになるが、この巨大増税法は日本の主権者である国民が国政選挙で明示した意思を踏みにじる形で決定されたものであり、民主主義のデュープロセスに照らして「正統性」を有していない。
法律が効力を持つためには、国政選挙において主権者国民がこれを肯定することが必要である。
つまり、「近いうちに」実施される総選挙で、消費増税関連法が是認されない限り、法律は効力を発しない。
次期総選挙で主権者国民は総力を結集して、この消費増税法を否定しなければならない。
とりわけ、国民に「シロアリを退治しないで消費税を上げるのはおかしい」と明言しておきながら、「シロアリ退治なき消費増税」に突進することを後押しする民主党議員は、次の選挙で、一人残らず落選させる必要がある。
このための「落選運動」を全面的に展開することが必要不可欠である。
さて、このような法案が審議されるなかで、日本経済新聞などのマスメディアが奇妙なキャンペーンを始めた。
消費増税法案の可決に対する疑念が生じたために、日本の長期金利が上昇したとの、「ウソの情報」が流布されたことである。
8月10日の参院委員会における締め括り総括質疑でも、野田佳彦氏がこのことを主張した。
しかし、これは真っ赤なウソである。
本日発行した『金利・為替・株価特報』第162号に詳述したが、日本の長期金利が上昇した理由は消費増税政局にはない。
私が連載記事を執筆している『週刊SPA』の8月7日発売号=8月14日・21日合併号のコラム記事に以下の文章を掲載した。
「歴史的低水準の米国長期金利
‘13年の景気減速予想はあるが、
そろそろ転換に注意が必要!」
のタイトルの下、米国長期金利が反転上昇する可能性を指摘した。
この記事掲載と時期を合わせるかのように、米国長期金利が上昇した。米国景気の回復可能性が認識されたとも考えられる。また、FRBによる追加金融緩和政策決定が見送られたことも影響しているかも知れない。
詳細は『金利・為替・株価特報』をご高覧賜りたいが、日本の長期金利が上昇したのは、単純に米国長期金利上昇に連動しただけのものである。
それを、あたかも、消費増税法案成立が危うくなったから日本の長期金利が上昇したなどと説明するのは、噴飯ものである。
日本経済新聞がこのような間違った分析記事を掲載するのは以下の二つの理由によるものであると思われる。
第一は、日本経済新聞の記者のレベルが低下していることだ。
まともな経済分析を行う資質を持つ人材が枯渇しているのだと思われる。
経済紙としては、これは致命的であると言わざるを得ない。
第二は、日本経済新聞が御用新聞化していることだ。この点は日経新聞だけの問題ではない。日本のマスメディア全体を覆う、深刻な問題である。
新聞業界は複数税率制が導入される際、軽減税率の適用を狙っていると見られる。
また、新聞社の職員の多くが、社内で出世して、先々には政府委員会の委員に就任するとの「夢」を抱いていると言われる。
このようなささやかな「夢」を実現するには、政府の軍門に下るしか選択肢がないのだと思われる。このような悲しい現実が横たわっているのだ。
レポートでは具体的にチャートを示して説明したが、日本の長期金利上昇が米国長期金利上昇に連動するものであることは明白であり、これと消費増税政局とは基本的に無関係である。