【新色素増感型太陽電池技術】
色素増感型太陽電池の概念が変わりそうだ。その話の前に、東京大学先端科学技術研究センタの瀬川浩
司教授、木下卓巳特任助教らの研究チームが、分子が光を吸収する際に電子の持つスピンの向きを反転
させることができる新色素(DX)を合成し、DXを用いた有機系太陽電池で可視光から目に見えない1000
nm(1ミクロン)以上の近赤外光まで非常に高い効率で発電させることに世界で初めて成功したニュー
スが入ってきた。通常の有機分子は光吸収によって逆向きのスピンが対になった励起一重項状態を生成
するが「光吸収と同時に電子スピンの向きを反転させて、電子スピンが同方向に揃った励起三重項状態
を直接生成させる」という通常では起こらない過程を効率よく起こすとができるという。その結果、色
素の光吸収を行う帯域を近赤外領域まで大幅に広げるが可能となる。また、DXを用いた太陽電池と別の
色素を用いた太陽電池を積層させた「タンデム太陽電池」とすることで(下図)、有機系タンデム太陽
電池におけるエネルギー変換効率を更新。このタンデム太陽電池では、30%を超える光エネルギー変換
効率を実現することも原理的には可能である。本研究を契機に高効率な有機系太陽電池の実用化が進め
ば、太陽光発電の低コスト化につながると期待される。さらに、今回の論文には記載されていないが、
発表者らは同系統の誘導体をさらに改良した色素で最大で12.8%のエネルギー変換効率を得ている。また、
太陽光の照射強度を通常の1/3程度まで減らした場合、エネルギー変換効率は13.5%程度まで上昇するこ
とを確認している。無機化合物半導体を用いたタンデム型太陽電池の場合、光量の減少に伴い変換効率
が低下してしまうのに対し、タンデム型DSSCは変換効率が向上する。このことから、タンデム型DSSCは
天候が優れない日や窓際など、光量が不足しがちな場面での運用につながる可能性があるという。
※スピン:電子が持つ、磁石のような性質(磁気モーメント)のこと。通常、分子が光吸収を行う過程
でその向きは保存され変化しないことが一般的な光化学の常識であった。
最近の技術開発傾向として、多孔体が酸化チタンだったりアルミナやジルコニアだったり、厚みも数百
ナノメートルとこれまでの DSC に比べて一桁薄いのが特徴(下表参照)。ペロブスカイト(灰チタン
石)と同じ結晶構造層を形成し、ナノ多孔体なしで変換効率を15.36%(有機金属鉛の共蒸着)を実現。
これは新たな有機と無機のハイブリッド化合物系半導体太陽電池と呼ばれても可笑しくない状態だと指
摘されている。つまりは、シリコン系太陽電池が色素増感型と漸近することで、可撓性・低毒性・意匠
性・低照度性という特性獲得・相互浸潤してきているというわけだ。
今夜はもう1つ、下記の情報を整理整頓し記載しておく。
【植物の乾燥ストレス耐性とKイオンチャネル】
近年の地球温暖化や異常気象は農業の生産性を不安定にしている1つの要囚ともなっており、乾燥
地域や塩が蓄積した土壌などの不良な環境における植物の生産性の向上が課題となっている。植物
は太陽光エネルギーを利用して光合成(炭酸同化)を行い、表皮組織に存在する気孔と呼ばれる穴
を通し二酸化炭素を吸収し、水の光分解によって発生した酸素を放出する。さらに、乾燥ストレス
に晒された植物は、気孔を閉鎖することで水蒸気の拡散を抑制して植物体内の水分量の減少を防い
で乾燥耐性を機能する。気孔は一対の孔辺細胞によ形成。孔辺細胞の膨張と収縮で気孔の開閉は制
御される。
気孔の開閉とシグナル伝達
気孔や孔辺細胞の研究はシロイヌナズナやマメ科植物を用いて進められている。細胞膜帰住性のプ
ロトンホンブでプロトンを細胞外への放出加細胞膜の過分極(細胞内加よりマイナスの電位になる)
を引き起こし、膜電位の過分極により細胞内にKイオンを取り込む機能をもつKイオンチヤネル(
KAT1)が活性化する。そして細胞内へK(カリウム)イオンが流人することで細胞が膨張し気孔が
開口する。反対に、KAT1の不活化と外向きのKイオン千ヤネルの活性化に伴う水の流出により孔辺
細胞内の膨圧が減少して、細胞が収縮で気孔が閉鎖する。このように、孔辺細胞の膨張と収縮とい
う一連の動きの制御をKイオンチヤネルが担っている。また、近年の研究により孔辺細胞のKイオ
ンチャンネルが植物ホルモンであり、乾燥ストレスホルモンとも呼ばれるアブシシン酸(ABA)シグナ
ル伝達経路の制御下にあることが明らかとなっている。ストレスに応答して蓄積したABAが受容体(
PYR1)に認識すると、プロテインホスファターゼとCaイオン非依存的リン酸化酵素の複合体が解離
しPP2CとPYR1が会合する。PYR1はPP2Cの脱リン酸化の酵素活性部位を抑制することによりOST1の自
己リン酸化が促進されて、OST1は活性明になり、気孔の閉鎖に関わる転ぢ因子のリン酸化やその他
の関連囚子をリン酸化する(上図B)。
Kイオンチャネルのリン酸化制御機構
ソラマメの葉から単離した孔辺細胞プロトプラストをABA処理すると活性化するリン酸化酵素)見い
だされていた。このソラマメのAAPK/ABRは、シロイヌナズナのホモログタンパク質。AAPK/ABRは細
胞質に露出しているKAT1チャネルのC末端領域をリン酸化するOST1を発現したシロイヌナズナ培養
細胞の粗抽出演とKAT1のC末端領域のペプチドを用いたゲル内リン酸化実験によって、KAT1のC末
端領域の標的リン酸化アミノ酸領域を17残基までに絞り込んだ、次に、17アミノ酸配列中のセリン、
スレオニンを1つずつアラニンに置換したC末端領域のペプチドと精製したOST1を用いてリン酸化
実験を行い、306番目のスレオニン(Thr3o6)が特異的にリン酸化されることを発見。質量分析ても
Thr3o6のリン酸化を検出。さらに、リン酸化によるKAT1チャネル活性の影響に、Thrのリン酸化を模
倣するアミノ酸のアスパラギン酸(D)に置換した変異チャネル(T306D)遺伝子と非リン酸化アミノ酸
のアラニン(A)に置換した変異チャネル(T306A)を作成、アフリカツメガエル卵母細胞発現系を利用
した電気生理学的手法で、これらのチャネル置換体のKイオン電流を測定。T306Aは野生型KAT1と
同様のKイオン輸送活性を示したが、T306Dは著しくKイオンチャネル活性が損なわれた。OST1によ
るC末端領域のT306のリン酸化によりKAT1が不活化することを示唆。 OST1によるKAT1の活性調節は、
乾燥ストレスで誘導されるABAの下流に存在する気孔の閉鎖機構の一端を示しているという。
これらより、C末端領域のThrのリン酸化は、乾燥環境にさらされた楠物の孔辺細胞で起こるKイオ
ンチャネルの活性調節と気孔開閉におけるシグナル伝達の収要な反応の1つである可能性がある。気
孔の開閉のKイオンチャネルの制御機構の解析から、乾燥地帯への適応性を高めた作物、二酸化炭素
吸収能力を高めたバイオマス資源作物の作出や人為的な気孔開閉の制御を目的としたKイオンチャネ
ルを標的する農薬開発が期待されているという。
火曜日、多埼つくるが仕事を終えたとき、壁の時計の針は八時を回っていた。その時刻にオ
フィスに残っているのは彼一人だけだった。そのとき彼が抱えていた仕事は、残業しなくては
ならないほど緊急を要するものでもなかった。しかし水曜日の夜に沙羅と会う約束をしていた
ので、その前に溜まっている用件をいちおうきれいに片付けておきたかった。
彼は区切りをつけてからコンピュータのスイッチを切り、大事なディスクと書類を鍵のかか
る柚斗にしまい、部屋の明かりを消した。そして顔見知りの守衛に挨拶をして、裏口から会社
を出た。
「遅くまでご苦労様です」と守衛は言った。
どこかで食事をしようかと思ったが、食欲は湧いてこなかった。しかしそのまままっすぐ家
に帰る気持ちにもなれない。だからJRの新宿駅に向かった。その日も彼は駅構内の売店でコ
ーヒーを買った。夏の東京特有の蒸し暑い夜で、背中にじっとりと汗をかいていたが、それで
も彼は冷たいものよりは、湯気の立つ温かいブラック・コーヒーを飲むことを好んだ。それは
習慣の問題なのだ。
9番線ではいつものように、松本行きの最終の特急列車が出発の準備を整えていた。乗務員
が何か不備はないか、車内を歩き抜けながら、手慣れた、しかし怠りのない目で点検を行って
いた。列車は見慣れたE257系だ。新幹線の列車のように人目を惹く華麗さはないが、彼は
その実直で飾りのないフオームに好感を持っていた。塩尻まで中央本線を進み、それから松本
までは篠ノ井線を走る。列車が松本に到着するのは真夜中の五分前だ。ハ王子までは都市部を
走るので、騒音を抑えなくてはならないし、そのあともおおむね山中を進み、カーブが多いこ
ともあって、派手なスピードは出せない。距離のわりに時間がかかる。
乗車準備が整うまでにはまだ少し間があったが、その列車に乗り込むことになっている人々
は忙しそうに、売店で弁当やスナックや缶ビールを買い込み、雑誌を河附加用意していた。i
Podの白いイヤフォンを耳に突っ込んで、移動する自分一入だけの小さな匪県を既に確保し
ている片もいた。人々はあちこちで、スマートフォンを指完で器用に操作し、あるいは構内ア
ナウンスに負けないように携帯電話に向かって大きな市を上げ、淮加と連絡を取り俘っていた
一緒に旅行に出かけるらしい若いカップルの姿もあった。彼らはベンチで肩を寄せ合い、幸福
そうに小声で語り合っていた。眠そうな目をした五、六歳の双子の男の子が、両親に手を引っ
張られるようにして、つくるの前を足早に通り過ぎていった。彼らはそれぞれの手に小さなゲ
ーム機を握っていた。重そうなバックパックを背負った外国人の若者が二人いた。チェロ・ケ
ースを抱えた若い女もいた。横顔のきれいな女性だった。夜の特急列車に乗って、どこか遠く
の土地にに向かう人々--つくるは彼らのことをいくぶんうらやましく思った。彼らにはとり
あず向かうべき揚所加ある。
多崎つくるにはとくに向かうべき場所はない。
考えてみれば彼はまだ、松本や甲府や塩尻に行ったことがない。そんなことをいえば八王子
にさえ行ったことがない。新宿駅のこのプラットフォームで、数え切れないほど多くの松本行
き特急列車を眺めてきたにもかかわらず、自分自身がその列車に乗り込むという可能性はこれ
まで一度も彼の頭に浮かばなかった。そんなことは考えつきもしなかった。どうしてだろう?
つくるは自分がこのまま列車に乗り込み、今から松本に向かうところを想像した。決して不
可能ことではない。そして、それは悪い考えではないように彼には思えた.なにしろふと思い
立ってフィンランドまで出かけたのだ。松本に行こうと思って、行けないわけがない。そこは
いったいどんな街なのだろう? 人々はそこでどんな生活を送っているのだろう? しかし彼
は首を振って、その考えを放棄した。明日の出社時間までに松本から東京に戻ることは不可能
だ。時刻表を調べなくてもそれくらいはわかる。そして明日の皮には沙羅と会う約束がある。
彼にとっては大事な一日だ。今から松本に行くわけにはいかない。
彼はぬるくなったコーヒーの残りを飲み、祇コップを近くのゴミ箱に捨てた。
多岐つくるには向かうべき場所はない。それは彼の人生にとってのひとつのテーゼのような
ものだった,彼には行くべき場所もないし、帰るべき場所もない。かつてそんなものがあった
ことはないし、今だってない。彼にとっての唯一の場所は「今いる場所」だ。
いや、そうじゃないな、と彼は思う。
よく考えてみればこれまでの人生で、向かうべき場所をはっきり持っていたことがただ一度
だけある。高校時代、つくるは東京のエ科大学に入って、鉄道駅の設計を専門的に学びたいと
望んでいた,それが彼の向かうべき場所だった。そしてそのために必死に勉強をした。おまえ
の成績ではその大学の入学試験に合格するのは八割方無理だろう、と担任の教師に冷ややかに
通にされた。しかし彼はがんばって、なんとかその難関を乗り越えた。それほど身を入れて勉
強したのは、そのときが初めてだった。他人と順位や成績を競い合うのは苦手だが、納得のい
く具体的な目標さえ与えられれば、自分はそれに心血を注げるし、それなりに力を発揮するこ
ともできる。彼にとっては新しい発見だった。
そしてその結果つくるは、名古屋を出て東京で一人暮らしをすることになった。東京にいる
あいだ彼は、一刻も早く故郷の街に戻り、またしはしのあいだ友人たちと顔を合わせていたい
と渇望した。そこが彼の帰るべき場所だった。そのように二つの異なった場所を行き来する生
活が、一年と少し続けられた。しかしある時点でサイクルは唐突に断ち切られた。
そのあとの彼には、向かうべき場所も帰るべき場所もなくなってしまった。名古屋にはまだ
彼の家があり、自分の部屋がそのまま残され、母親と上の姉がそこに住んでいた。下の姉も市
内で暮らしていた。年に一度か二度儀礼的に帰郷したし、そのたびに温かく歓迎されたが、彼
としては母や姉たちを相手にとくに語り合うべきこともなかったし、一緒にいて懐かしいとも
思わなかった。彼女たちがつくるに求めているのは、つくるがもう不要なものとして置き去り
にしてきた彼のかつてあった姿たった。それを再現し提供するために、彼は不自然な演技をし
なくてはならなかった。名古屋の街も妙によそよそしく、味気なく感じられた。つくるが求め
ているものは、あるいは懐かしいと思うものは、そこにはもう何ひとつ見いだせなかった。
その一方、東京は彼にとってたまたま与えられた場所だった。かつては学校のある場所だっ
たし、今では職場のある場所だった。彼は職能的にそこに属していた。それ以上の意味はない
つくるは東京で規則正しく、もの静かに生活を送った。国を追われた亡命者が異郷で、周囲に
波風を立てないように、面倒を起こさないように、滞在許可証を取り上げられないように、注
意深く暮らすみたいに。彼はいわば自らの人生からの亡命者としてそこに生きていた。そして
東京という大都市は、そのように匿名的に生きたいと望む人々にとっては理想的な居場所だっ
た。
PP.354-357
村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
【ゴミ屋敷強制撤去を巡る話】
住宅の敷地内にごみをため込む「ごみ屋敷」の解消を目指し、指導に従わない場合は強制撤去を可
能にする条例件案の骨子を大阪市がまとめたことが20日に分かった。同様の条例10+ 件は東京都荒
川区と足立区、富山県立山町で制定されているが、政令指定都市レベルの規模での制定の動きは初
めてで9月に開かれる次期市議会に提出する方針だとか。大阪市は昨年10月にプロジェクトチーム
を設置し、市内を調査。今年3月1日時点で、24区中15区で計77軒のごみ屋敷を確認した。ごみ屋
敷の定義は「悪臭や害虫が発生し、近隣住民の健康に影響を与えるなど生活環境を損なう状況にあ
ること」を指す。居住者が「これはごみではない」と主張すれば行政は介入できないのが現状で、
全国的な問題となっている((2013年6月21日06時02分「スポーツ報知」)。
条例案骨子によると、住民からの通報や職員の巡回でごみ屋敷を認知した後、各区役所で対策会議
を開き、解決に向け支援を行う。居住者が説得に応じない場合は、弁護士など第三者による審査会
の答申を踏まえ改善を命令。それでも従わない場合は、行政代執行法に基づく強制撤去を可能にす
る。居住者に経済力がない場合、市が撤去費用を負担することも想定している。大阪市は21日から
条例 件案骨子について市民から意見を募る。これまで確認されていなかった“隠れごみ屋敷”が
出てくることにもなりそうだが、担当者は「制定されれば抑止力になる」と話しているという。公
権力行使はいつもその使いようが難しい。例えば、『知事抹殺』(『風評とリスクと組織犯罪』)
のように、原子力発電の使用済み燃料の最終処分が決まらないまま、強引に建設稼働を進める政治
国家官僚機構の暗部をさらけ出したが、個人の性格あるいは家族の事情で、近隣の居住権が侵害さ
れるのであれば、行政(状況及び類似案件の調査)と近隣住民の調整で円滑に解決する仕組みを考
えることは同列で考えることはできないのは勿論だが、この「ゴミ屋敷」を日本の抱える問題のメ
タファとしてとらえなおすと「いじめ」「基地」「原発」「格差」「不況」「憲法」などなど7月
の参議員選挙に向けての争点が見えてくるというもので、このブログでもそのことに、適宜、適時
触れてみたいと思う。