極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

フェミニズムの現在

2014年03月06日 | 時事書評

 

 

   1999.09

 


【アベノミクス第三の矢 僕ならこうするぞ!】


 ●日本の会社はどうして休暇がとりにくいんだろう

  会社のほうはできるだけいっぱい働いてくれたほうがいいっていうことでしょうけれど
 も、先ほども言いました労働基準法に則って、ここにこう書いてありますって言ったら、
 一も二もなく、休暇は取らせなきやいけないし、取らなきやいけないみたいなことになっ
 てるんだけど、実際問題としてはなかなかそうはいかないです。
  僕らも勤めたときはそうでしたけど、有給休暇っていうのは全部余っちゃって、そのぶ
 ん金でくれよって言うんだけど、そんなことはぜんぜんしないで、みだりに休むこともで
 きないしってことにどうしてもなっていましたよ。
  宮沢賢治の童話で「猫の事務所」っていうのが僕は好きなんで、先にもあげておきまし
 た。これは一日、二日風邪で事務所を休むとほかの猫が机を占領しちゃってて、休んだ猫
 の仕事も分担してやってしまっていたという話です。
  二、三日して出てくると、自分のいる場所がなくなってるんですよ。それで、同僚の猫
 も知らんぷりしててかまってくれない。しまいにしくしく泣きだす。事務所長が、同僚か
 ら「あなたの地位をいつでもうかがって乗っ取ろうとしている猫ですよ」なんて聞かされ
 て、その話を信用した所長もあんまりかまってくれないわけです。そこに窓から獅子、つ
 まりライオンが首を出して「お前ら、何してるんだ、そんなけちな意地悪をするような根
 性で歴史も地理もへちまもないじゃないか」って怒るんです。
  あれはそっくり会社の産休や有給休暇の問題ですよね。宮沢賢治も農業学校の先生をし
 ていたとき、そんな陰微な意地悪を経験したんです。二、三日も会社を休んで出て行くと、
 なんかみんな疎遠な雰囲気になっちゃってて、なんとなく居づらい。それを回復するには
 二、三日かかる。勝手に休んで……、という感じになるんです。その雰囲気は誰がつくる
 んだっていうと、上のほうが強制するわけじゃないんだろうけど、一生懸命に働いて、有

 給休暇なんか取らないほうがいい社員なんだって考えがどこかにあるんでしょう。だから、
 同僚たちまでそういう雰囲気になっちゃって、ということを体験しますよね。
  実際にそういうことでお産の休暇が取れないのなら、強い組合でもあって、労働基準法
 ではこうたって頑張れば、それはちゃんと取れるところまで主張できるでしょうが、そう
 いうのが無力な現在では、大変やりにくいし、みんなで共同してやっても、言い出しっぺ
 は責任をとらされる。風当たりが強くなって「リストラ」されやすいということにどうし
 てもなりますから、きついなってことで躊躇してしまうでしょう
  でも、そこは面倒なところですけど、本当言うと、労働法規を見れば、産休か有給休暇
 は取らなきやいけないし、取らせなきやいけないというふうになっています。ところが実
 際は、子どもを産んでるんだからって言ってみても、なんとなく取りにくいな、みたいな
 ことになっちゃうんです。また子どもを産みおえ、託児所などにあずけてまた職場復帰を
 望んでも、働き方がにぶくなるし、扶養家族もふえるということで、そのまま会社を辞め
 てくれることを、上司は内心で希望している。それが日本の社会です。
  だからもう、なんと言われたっていいや、と産休を取っちゃうし、職場復帰もしちゃう
 しかないというのは、はっきりしてるでしょう。日本の社会ではなかなかそういう飛び出
 し方はできないから、そこのところはあいまいなままどうしても残っちゃう。これこそ法  
 規に照らせば非常に簡単なことで、それを通さなきや嘘だよ、通らなきや嘘だよっていう
 ことになっているわけですね。だけど、それじゃあそれはどこから糸口を探して直せばい
 いか。
  こういうことは上の、例えば労働省のほうから直す以外に直らないんですね。休暇は必
 ず取らなきやいけない、職場復帰は歓迎されなければいけないって、上から言ってくれれ
 ば、すぐにそうなりますけど、そうじゃないと、下から同僚同士でっていうのは、なかな
 かやりにくいですね。

                   「第7章 子どもを産んでも働きたい貴女へ」


村社会秩序(封建遺制)の残渣があり西欧の人権意識の醸成の遅れ、さらに官尊民卑や営利組
織への帰属意識の強さもあり、勤労庶民の生活水準の引き上げは資本主義や家族主義の許容内
に留め置かれ、そこには、三島由紀夫の『絹と明察』(『ヘルダーリンと琵琶湖』)の世界が
展開されていたわけだが、資本主義の高度化と欧米化の進展とともに女性の就労機会が改善さ
れ、産後の再就職の機会も改善されつつあったが、90年代に入ると新自由主義(新保守主義)
の権力形成(『新自由主義論Ⅰ』)に伴い所得格差の拡大とデフレーションという生活苦を
いる不況に喘ぐ時代に突入する。それでもリマーショック以前は業種や個別企業においては活
況を呈する職域がありそのような職域では就労条件も良かったと考える。

尚、育児休業は、1991年に制定された「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労
働者の福祉に関する法律」にその基準を下に就労規則などで独自の上乗せ規定されている。




 ●会社にとって、惜しい人材なんていないよ

  やっぱり女性のほうが不利ですよね。一年間なら一年間はどうしたって育児期間がなけ
 ればいけないわけですから
  前に、関西のほうに学問好きの女性がいて、アメリカかどこかに留学して妊娠して帰っ
 てきたけれども、お産なんかしてたら勉強が遅れちゃうからって堕しちゃったので、旦那
 と諍いになったという話がありました。僕は、一年ぐらいお前が勉強をやめたってどうっ

 てことないんだ、それより、一年ぐらい学問から離れて子育てに専念したら得るところは
 多いんだよって言いたくなったことがありました。そういうことを言うと、フェミニスト
 たちに怒られて、目の仇にされるわけだけど、これは本当だと思います。
  産休も育児休暇も取りにくくて、子どもができたら辞めていっちゃう。せっかくの人材、
 キャリアがもったいないじゃないかという声もありますけど、お前じゃなくてもそんなの
 いくらでも代る人はいるぞっていうのが本音のところでしょう。
  僕の職とする文学の世界でいうと、原稿料いくらじゃないと書かないなんて言ったら、
 じゃあ、いいですって言われます。もっと優秀でタダでも書きますっていう人がいますか
 らってことになり、会社よりもっとひどいです。
  世の中には頭のいいやつも能力のあるやつもいくらでもいるけど、虚業の中核は魂の問
 題だ。頭がいいと言ったって、秀才と競り合ってそこで勝てなきや本当の優等生じゃない。
 だから頭がいいなんて、そんなこと夢にも自慢するなよってことです。僕は日本国には
 この人材がいなくなったら惜しいなんていうのはどこの分野でもないんじゃないか、と思
 っています。いくらでも代りはいるんですよ。
  特にひどいのはヽ文芸とか文学、いわゆる虚業の世界です・政治家も虚業ですけど、虚
 業っていうのは、タダでもやりますっていう人間がいくらでもいるわけです。タダでもお                                            
 前よりいいのを書くぞとか、いい政治をするぞって言って、本当にできてしまういいのが
 いるんですよ。
  だから、いくら威張ったって、物書きの組合をつくって、原稿料を一斉値上げしようじ
 ゃないか、とやっても絶対駄目です。文芸家協会は1つしかないけど、そういうことで、
 なかなかやってくれないです。保険とかはやるけど、協会として原稿料の一斉値上げなん
 ていうことはしないですね。これこそひどい世界といえばひどい世界で、そういうので連
 帯性なんか毛ほどもない。きっと政治家の世界もそうじゃないかと思います。インチキし
 て株をどうしたとか、企業から不正に献金してもらってとか、そんなことをやらないでも
 政治的業績をあげられる人は、本当はいっぱいいるんじゃないかと思います。

                   「第7章 子どもを産んでも働きたい貴女へ」  


就労時、リストラで誰を残し誰を希望退職させるかのノルマを課かされたある上司の話で、残
したい部下ほど、目先が利き、また就労当てがあるのか辞めると聞かされたことが思い出され
吉本がいう「会社にとって、惜しい人材なんていないよ」とはこのケースは当てはまらない。
もっとも、世界一と思える企業内労働組合があっての話だから、個別企業の経営手腕の有り様
は複雑で難しいというのがわたしの実感である。
                        



 ●産休を気持ちよくとる方法

  女性の産休のことに話を戻せば、同じように自分たちで何とかするのは、なかなか難し
 い。労働省の婦人局長とか、今は女性の局長がいますから、それにかけ合うのがいちばん
 いいんですね。それとも、田中角栄の娘さんの田中真紀子なんか言いたいこと言ってるじ
 ゃないですか。ああいう人にそういう問題についておしゃべりしてほしいって頼む。原則
 は簡単なことで、ああいう人たちがしゃべりに行くと、いくら取るか知らないけど、例え
 ば竹村健一とか堺屋太一なんかは百万円単位で出すと来るんだそうです。僕らなら十五万
 か二十万円くれれば、すいすいとお喋りに行きます
  だから、会社の女性一同でそれだけのものを出して呼べば、必ず来てくれますから、そ
 こで、私たちはこういう問題で困っているんです、ひっかかっているんですって質問して
 みる。田中真紀子か、労働省の女性の局長に、女性の労働問題についておしゃべりしてく
 ださいって頼む。
  ああいう人はあんまりお金を取ると収賄だなんて言われるから、きっと十万円やそこら
 で来ると思いますから、そうやって来てもらうと、ああ、そうか、これは大変だって少し
 は考えるでしょう。そういうふうに上から行くよりしょうがないでしょう。
  上から行くよりしょうがないことってあるんですよ。教育問題もそうで、上から行くよ
 りしょうがない。
  僕はよく言うんだけど、東京大学の教授が亜細亜大学に行って四年間なら四年間、学生
 が入学から卒業するまで面倒をみる。四年以上はそこで働かなければいけないということ
 にして、出張手当は出す。亜細亜大学の先生は東京大学に行って、必ず四年間は学生を引  
 き受ける。そういうふうにしてごちゃまぜにすれば、受験地獄なんてなくなるんですよ、
 すぐに。
  下からは駄目です。下からいくら変えようとしても、頭のいい子はいい学校へとか考え
 て、それほどじやない子もその次とかなっちゃって、ちっともよくならないですから。
 からやればすぐなんです。それは女性問題も同じだと思います。上から変えればすぐ変わ
 る、いちばんいい例だと思いますね
  それこそこれは、国民一般とか、民主主義一般とか考えなくていい問題なんです。特定
 のところだけ考えればいい。税金の問題とか、「リストラ」問題とか、年金・保険なんて
 いうのは国民一般の利益を基準にしないといけない問題ですが、それとは違います。
  この問題はほんとに簡単で、職場の女性が集まってお金を出しあって、よその手当より
 も少しだけ多く出して、婦人問題について話してくれないかといって来てもらって、話を
 してもらう。あとで職場の現状を訴える。それだけ啓蒙すれば、響かないはずはないんで
 すね。それをいろんな会社でやったら、女性局長が必ず動き出すきっかけの一助となるこ
 とは、ほとんど間違いないです。

                   「第7章 子どもを産んでも働きたい貴女へ」

 ●制度を変えるときの最低条件は

  僕も人におしゃべりを頼んだことがあるんです。そういうときは、僕みたいな下っ端だ
 と、例えば公立図書館は五万円くらいしか出さないで俺に話させるつもりか、ずうずうし
 いもんだねと思うけれども、行くわけですよ。志に感じればタダでも行くことがあります。
  だいたい、普通の文学者だったら、十五万円か二十万円出すと、どんなところでも来て
 くれますよ。偉い人は百万単位でくれって言うかもしれないけど、普通はそのくらいで来
 るんです。だから、僕が頼んだときは、普通の額に上乗せしたくらいの条件で、それから、
 車で完全に送り迎えしますということで頼んだ覚えがあります。
  昔、学生運動をやってた僕らのよく知ってる人が、僕の名前をつけて集会を開いて、聞
 いてみたら、来てくれた講師の人に一銭も払ってないようなことがありました。当然、冗
 談じゃないって話になるんです。僕は絶対そんなことはしないです。金銭的にも資本主義
 社会以上のことができないなら、やるなっていう考え方です。だから、僕は自分でやった
 ら絶対に払うべきものは払います。それができないならやらないです。これはとても重要
 なことで、特別な場合は別ですけど、一般的に偉い人、上の人に動いてもらうときにはそ
 れが条件なんです。


 ●吉本家の子育て、実情と意見

  子どもができたら仕事を辞めてほしいという男性が今も多いかどうか、僕はよく知りま
 せん。
  僕なんかはそんなこと言いそうなクチですね。ただ、子どもが小さいとき医者から、奥
 さん身体が弱いから、旦那さんが育児の手助けをしなければ、子どもを育てるのは難しい
 ですよ、と釘をさされました。そんなこともあって、育児と炊事当番は我ながらよくやっ
 たほうだと思います。でも、そういう必然があったから、できるだけ回避すまいと思った
 という言い方がいいのかもしれません。
  どんな物臭な男でも、必然がどこかにあれば、やることはやるものだと思います。
 三十代の後半ころから、物書きは生活のための職業になってしまいました。しかし文学、
 芸術が虚業であることに変わりありません。このジレンマや矛盾にはずいぶん考えさせら
 れました。日常生活と生活費のための虚業と、どちらに重さをかけるのかという課題は、
 女性にとって育児と自分のやりたい仕事や勉強と、どちらに重さをかけるのかという課題
 と同じで、永久に解決はないのかもしれません。自分の意志と配慮とが最後まで角逐する
 でしょう。
  ただ社会はこの難しい課題を緩和するために、社会的条件を整えるべきだと思います。
 産休もその一つですが、外堀を埋めるのは社会公共の仕事で、少しでも個々人の負担を軽
 くする義務があります。
  子どもが生まれたら、少なくとも一年は仕事を辞めて、子育てに専念してくれっていう
 男はいると思います。僕もどちらかといえばそうです。専念するって言っても、最初の一
 年間でいいんです。つまり片言をしゃべり、よちよち歩きできるまで本当に心からゆった
 り丁寧に育てられたら、後は働きたければまた働けばいい。胎児期も含めて、一歳まで非
 常によく育てたら、まず間違いないはずです。そうしたら、悪くなるはずないんですよ。
 何か面倒なことが起こっても、家庭内暴力を起こしたり、神戸の少年みたいに仲間の子ど
 もの首を切っちゃったとか、そんなことすることはまずないですね。
  一年ぐらい子育てに専念しても決して損はしません。そこがよくできたら、子どもはま
 ず、これはとんでもないっていうことにはならない。職場も社会もこの一年の大切さを知
 って、ゆったりした休暇と経済的なゆとりを女性に提供すべきです
  もう一つカギがあって、それは十二、三歳の異性に目ざめるころです。そのときに、叔
 母さんとか、あるいは昔でいえば子守さんやお手伝いさん、そういう人たちから性的に深
 刻ないたずらをされると、これはまた第二次的にそうとう響くはずですよ。だけど、それ
 がない限りは、変てこりんな子になったとか、家庭内暴力をふるうとか、そんなことは絶
 対ないと思いますね。僕らは立派な父親だとは一度も思いませんけど、家庭内暴力は起こ
 さないかも知れないところまではやれたような気がしています。
  でもあてにはなりません。潜在的には、暴力を起こしたくてしょうがない、と思ってい
 るかもしれない。僕のところは子ども二人で、二人ともそうなのだろうけど、まあまあ我
 慢してるというところでしょうか。一年間の産休がいかに大切か、また最小限そこが心の
 底からできていたら、という話からこんなところに来てしまいました。

                   「第7章 子どもを産んでも働きたい貴女へ」

 

 ●「子どもを産んだら仕事は辞めろ」という男の真意 

  女性は子どもが生まれた一年ぐらいは、産休をとって子育てにゆっくり専念して、会社
 のこと、社会的なこと、自分のやりたいこともすべて忘れて、生まれた子を真正面からか
 わいがってあげたらいいよって思います。
  それでまた、会社はそれを承認して、環境を整えてくれるべきです。そして、極端なこ
 とを言えば、一歳を過ぎたら、託児所にあずけて夕方受け取ろうが何しようが、それはほ
 とんどその子の将来に響かないですね。それからはいくらむちゃくちゃしても構わないで
 すけど、そこのところ、ほんとに最初の一年間だけ心から子どもに向き合ってちゃんと育
 てたらいいと思います。それは女の人にとっても損にならないと思いますし、のちのち苦
 労しないで済むと思います。そうすれば、後は何をやっても大丈夫というふうになるでし
 う。

  もっと言うと、一歳までと、さっき言った十二、三歳のころ、この二つがうまくいった
 ら子どもは大丈夫です。後はどんな悲惨な目に会おうとどうしようと、まず大丈夫だと僕
 は思いますね。だけど、そこが駄目だったら、これはいくらやっても、学校の先生が命の
 大切さを知らなきや駄目だ、なんて言っても知ったこっちやないっていうか、そんなこと
 は役立つはずがなく、問題にならないですよ。中学の校長がお説教したり、高校で命を尊
 重しようなんて教えたって、そんなのは遅すぎるんですよ。
  そんなことは何も言わなくたって、一歳までをきちっと向き合って育てる。それから、
 そういう子はめったにないけれども、性にめざめるころに近親の人から性的な悪どいいた
 ずらをされなかったら、もうそれで十分。命も尊重しますし、大丈夫なんです。そこは重  
 要だと思いますし、えてして女の人が誤解しているところじゃないんでしょうか。
  ここで産休の意味をもう少し掘り下げてみたいです。
 産休は妊娠から出産まで、そして出産から一年くらいの間の育児期間をゆったりと取れ
 また職場に復帰することが、スムーズにゆくことが必須条件です。そして精神的に言えば、
 なぜ女性だけが自分の責任でもなく、偶然と言ってもいい契機から、子どもを生むという
 難行を引受けねばならないのかという疑念に、応えなくてはならないことになっています。
 それは人間の性愛から子どもを産むことが自然とすれば、ますます反自然的な愛情の方向
 に分岐しつつあるからだと思います。これは人間の性がその人間の選択で自由に変化でき
 ないため解決しないからです。さしあたり解決不可能な問題と言えます。産休の問題はそ
 こまで踏み込むことになると思います。
  一方で、そうじゃないんだというのがフェミニストたちの考え方ですね。だから、僕な
 んか「よくやりましたよ」と言ってもぜんぜんカウントしてもらえない。そんなの問題じ
 ゃないわよって言われちゃって、しようがないなっていう感じなんですけどね。
  だけど、勤めに出て僅かな金をもらってくるより、一年だけは子どもと一緒にいてやれ
 よって旦那が言うのは、悪くないと思ってます。それから、女の人にとっても一年ぐらい
 休むのも悪いことじゃない。それ以外は働きに行っても何してもいいから、そこだけはや
 ったほうがいいぞっていうことは、僕は言えそうな気がする。男の人はそういうことを言
 おうとしているのに、違うように受け取られてるっていうことも僕はあるような気がしま
 す。それは考えるべきことのように思います。それをやることは、決して女の人の不利益、
 損にならないと思います。その間、世間から遠ざかっちゃうし、子どもの世話だけってい
 うのも息苦しいですけど、何とかどこかで息抜きをして、本当にやったよなあっていうよ
 うにできたら、文句なし。あとは開放されたも同然だと思いますね。
  よく考えてみれば、旦那はそういうことか、それに近いことを言ってる場合もありうる
 わけですね。
  また、女の人自身が、育てている間に、これは大切なことだって思って、会社に行って
 働いて給料をもらうより、こっちのほうがいいやって思って会社を辞めることもあるかも
 しれない。それはありうることのように思います。一年間さえ産休と育児休暇がとれれば、
 あとは復帰してもいいし、何してもいいんだけど、同じ職場に行こうが、違う職場に行こ
 うが、また違うことをしようがいいと思います。最初の一年だけじゃないでしょうか、本
 当に大切なのは。そこを抜かしたら、後から何をやっても駄目だよって思いますね。
  たいていの女の人はあんまり十分にできなかった、まあ、いろんな事情はあるんでしょ
 うけど、できなかったもんだから、子どもが受験生時代になってから、しっかり勉強して
 いい学校に行け、とか言うでしょう。つまり教育ママみたいになる。あれは僕に言わせれ
 ば、一歳までの育て方がまずかったっていうことを自分で知っていて、ここで取り返そう
 と思ってるんだって確信して疑わないですね。
  だから、そこは男のほうから言えば、誤解なきようにって言いたいところですね。
  フェミニズムの女の人の主張はもっとラジカルかも知れませんが、子どもを育てること
 についてラジカルなのではなくて、自己拡大についてラジカルなんだと思います
  でもそこは矛盾だらけです。経済的に男性から完全独立せずに、男女平等を主張したり、 
 男に押されたら、直接的に押し返すくせに、男に優しくあつかってもらいたいと願望した
 り、およそ男のほうからは見ていられないです。
  夫婦間で男のほうの暴力沙汰がふえたり、女のほうの夫殺しがふえたりという話題が多
 くなったのは、そのためではないでしょうか。    

  
              「第7章 子どもを産んでも働きたい貴女へ」
PP.131-146


経済活性化の起爆剤に「女性力」は欠かせない。これは、アベノミクスの第三の矢でも同じ扱
いになる。商業施設ゾーンや第三次産業での消費拡大はひとえに集客する女子力に依存する。
そのチカラを存分に発揮するには、回り回って男子の所得増→格差縮小という方向に政策をチェ
ンジ→新自由主義の矛盾克服→超消費資本主義社会の実現と目標設定したのは他ならぬ吉本で
なかったのかと考える。その具体例の1つとして、この章では「産休」をめぐる考え方とその
権利拡充の方法論が平易に語られていたと位置づけたい。

ところで、フェミニズム全体に共通する見解はないに等しいとされる中、日本のフェミニスト

運動の現状ってどうなっているのだろかと、ふとそんなことを思ってみた。男女平等は法的手
段や社会改革を通して実現可能であり、集団としての男性と闘う必要はないと主張するリベラ
ル・フェミニズムに親和力を感じるのだが、ゴミ出しの役割を果たせていないわたしなのだが
今時の若い家庭では男性がゴミ出しをしないと、すぐに離婚されるのよと彼女がそう話すぐら
いだから、フェミニズム云々依然のこと。当番スケジュールが書斎のコルクボードに彼女が確
かに貼り付けてくれているが、何故か忘れてしまっているから、この項は締まりが悪くて当然
ということに。



                                                  吉本隆明 著 『僕なら言うぞ!』

                
                                                  この項つづく

 

 

 

 

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