【日常の最新科学技術】
●人工衛星から雨雲スキャンレーダ
上図は宇宙航空開発研究機構と米国航空宇宙局などと共同開発した全球降水観測計画(GMI)主衛星が
持つマイクロ波の受動型13周波数チャンネルによる輝度温度を示しす。左から、10.6GHz鉛直偏波(V)、
10.6GHz水平偏波(H)、18.7GHz V、18.7GHz H、23.8GHzV、36.5GHz V、36.5GHz H、89GHz V、89GHz H、
166GHz V、166GHz H、183±3GHz V、183±7GHz Vのチャンネル。10.6~23.8GHzチャンネルは水滴の
雨に感度があり、36.5~89GHzチャンネルは液体と固体降水の両方に感度がある一方、高周波は固体
降水(雪)に感度がある。GMIは、協力機関の副衛星群による一貫した世界中の降水を提供できるよ
うに高機能な校正能力を有しています。さらに、GMIは雲の構造を詳細な解像度で示すことができる
ようになると言う。わたし(たち)は、これらの内挿データ群(説明因子)から予測(目的因子)
のデータを素早く可視化し、地上観測データ群と統合し、自然災害に対するレジリエンスを高め、
住民の生活向上に役立てられることを期待している。ノズルの開発購買からはじまったわたしの熱
流体学の数値計算と可視化の専門知識習得と実験経験はおおよそ20年、本件の雨雲スキャンレーダ
や全球降水観測マイクロ波放射計の理解に少しは役立ったことに、ホッとしたような安堵を感じ、
不思議な気持ちでいる。それは、わたし(たち)も多少なりとも知っていたのだという、いわば、
時代から取り残されていないことの自己表明のようなものが働いているのかも知れない(なぜ「流
行に遅れたくない」と思うのか、吉本隆明『僕なら言うぞ!』)。
光触媒物質として酸化チタンはよく知られているが、結晶構造がアナターゼ型とブルッカイト型の
酸化チタンのそのバンドギャップは3.2eV以上のエネルギーをもつ光である紫外線が照射される
と、伝導帯に自由電子を同時に価電子帯にホールを生じ、これらの自由電子とホールとが物質外に
放出されることがあり、放出された自由電子とホールとがそれぞれ酸化・還元し、その物質周辺の
大気汚染物質、揮発性有機化合物(VOC)、NOx、臭気物質、および、ダイオキシン等を酸化・
還元作用で分解除去し殺菌する等光触媒として機能する(下図「酸化チタンの光触媒機能発現メカ
ニズムを示すエネルギーダイヤグラム」参照)。この他の光触媒材料には、酸化鉄(Fe2O3)、
酸化タングステン(WO3)、酸化スズ(SnO2)、酸化ビスマス(Bi2O3)、酸化ニオブ(Nb2
O5)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(Cu2O)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化亜鉛(
ZnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸鉄(FeTiO3)、酸化ケイ素(
SiO2)等の酸化物半導体がある。
特開2008-126100
下図に示すように、太陽光や蛍光灯光のスペクトルは、450~600nmの波長域にピークをも
ち、400nm以下の成分は非常に少ない。一方、上述のような酸化物半導体は、400nm以下
の領域の光しか吸収しないものが多い。従って、これら酸化物半導体からなる光触媒を太陽光下あ
るいは室内の蛍光灯下で使用する場合、光の利用効率が低く、十分な光反応を生起することができ
ないという問題点がある。その対策例として、酸化物半導体に窒素原子Nを配すると、酸素Oの特
性を支配する半導体の価電子帯が影響を受け、酸化物のバンドギャップの内側に新しいエネルギー
準位が形成され、バンドギャップが狭くなる。その結果、窒素ドープ前の酸化物の場合より低エネ
ルギーの長波長光をも吸収して、電子と正孔を生成し、光触媒作用を呈することが可能となる。ま
た、窒素のドーピングにより、生成した電子と正孔の寿命が長くなる。さらには、構造的に材料表
面への有機物やガスの吸着性が高くなるため、この相乗効果によって触媒活性が向上する。太陽光、
蛍光灯光を光源とした場合における光触媒効率、すなわち、有害ガス分解、水浄化、有機物分解、
抗菌などの効果を向上することができる。さらに、可視光照射による物体表面の濡れ性や、防曇性
能が発揮され、またこれらの特性を長時間保持できるようになる(下図の酸化錫の例参照)。
特開2001-205094
さらに、別の方法として、光触媒機能を発現する酸化チタンなどの物質(百モル/バンドギャップ:
1~5eVの範囲)に、これより小さいバンドギャップ(0.3~5eVの範囲/伝導帯電位:
-2~0Vの範囲)の第2物質(1~12モル)の物質を結合させ方法がある(下図参照)。この
ときの第1物質は、炭化珪素、ガリウム燐、ガリウム砒素、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、硫
化カドニウム、カドミウムセレン、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブで、第2物質が、酸化
ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化ストロンチウム、硫化モリブデン、酸化インジウム、酸化ビスマ
ス、酸化タングステン、酸化スズ、酸化バリウム、酸化ホウ素および酸化カドニウムなどである。
特開2008-126100
さらに、物質・材料研究機構で、太陽光をエネルギー源として水から水素燃料を生成することがで
きる新しい光触媒物質:4酸化3スズ(Sn3O4)を発見している。それによると、可視光を吸収し、
水を分解できる新しい光触媒材料の開発が世界規模で進められているが、現行の材料の多くは高価
なタンタルなどのレアメタルや毒性の高い鉛を高濃度に含み、コストや環境対応性の面で課題を抱
えていが、理論科学と実験科学の連携により可視光下での水分解光触媒反応に対して好ましい電子
構造を持つ可能性があるという理論予測に基づき物質探索を行ったころ、これがビンゴー!スズの
酸化物は、毒性が低く、安価であり、豊富に存在し、透明電導体の材料として広く利用されている。
Sn3O4触媒は、同じくスズと酸素から構成される2酸化スズ(SnO2)や、高活性水分解光
触媒として知られ、酸化チタン(TiO2 )実用化して広く普及することを考える場合、触媒によ
る水素生産量を評価するには、触媒に含まれる金属の産出量も考慮した年間最大水素生産量)が活
性を示さない可視光照射下(照射光波長>400ナノメートル)で、メタノール水溶液から触媒材
料1グラムあたり1時間につき0.52ミリリットルの水素ガスを生成する(上左図)。今回得ら
れたSn3O4の年間最大水素生産量は、最先端の可視光感応型水分解光触媒物質、例えば銅ドー
プ・タンタル酸ビスマス(BiTaO4)と比較して、約5倍の値に相当。まず、理論的観点から、
2価のスズイオン(Sn:Cu) Sn2+を含む酸化物が、可視光下での水分解光触媒反応に対し
て触媒活性を示す可能性が予測。Sn2+を含みさらに可視光を吸収するために好適な電子構造を
持つSn3O4(Sn2+2Sn4+O4 )を探索・合成し、その光触媒活性を確認。SnO2は、
Sn3O4と同じくスズと酸素から構成するが、Sn4+イオンが形成する伝導電子帯と酸素が形成す
る価電子帯のエネルギー差が大きすぎる(~3eV)ため、可視光を吸収することができない。一方のSn3O4
は、Sn4+イオン由来の伝導電子帯と酸素由来の価電子帯の間にSn2+イオンが新たな電子状態を形成
するために、効率的に可視光を吸収できる点である。
上図から、主にSn 4+からなる伝導帯(エネルギー:+2eV以上)と、主に酸素からなる価電
子帯(エネルギー:-2eV以下)の間に、Sn2+と酸素からなる電子状態が形成され(エネル
ギー:-2eVから0eV)。可視光は、この電子状態から伝導帯への電子遷移によって吸収され、
触媒表面における水分解反応にエネルギーを供給する。
●色素増感ではなかったペロブスカイト型色素増感太陽電池?
昨夜のつづきともなるのだが、前述した酸化チタンの「エネルギーダイヤグラム」と大いに関係あ
るる話。桐蔭横浜大学の宮坂力らのグループが開発した有機-無機複合物質のハロゲン化鉛系ペロブ
スカイト利用の色素増感太陽電池だが、この物質はハロゲン化鉛(これは負の帯電したユニット:
鉛毒性でいやがる専門家がいるが、ここは過渡期の実験段階とわたしは考えている)の作る二次元
シートと、有機カチオン分子が並んだ層とか交互に積層した物質で構成することはブログ掲載済み
だが(有機カチオンは耐久性が悪いと指摘する批判がある),これを酸化チタンに吸着させると非
常に効果的な増感色素となり、2009年に発表され、2012年にはついに変換効率が10%を超えるものが
試作されてきた(現在で、16%以上を記録、東大の瀬川グループも矢継ぎ早に記録更新していると
の情報もある)。前述したように、色素増感太陽電池は、「電荷分離を起こすにはちょうど良いけ
ど、光吸収が弱い物質」と「光吸収が強い物質」を組み合わせ役割分担させることで発電する素子
であるが、ペロブスカイト系は「自分のところで光を吸収して、単独だけでも、そのまま電荷分離
を起こし起電力を生んでいる」可能性があるという論文が提出されている(下図参照、2013.11.15)。
さらには、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームが、ペロブスカイト系太陽
電池の低コスト作製法を開発した。有機分子の蒸気を利用した溶液プロセスによって、ハロゲン化
メチルアンモニウムとハロゲン化鉛からなる有機/無機ハイブリッド型ペロブスカイト薄膜を形成
する。変換効率は12%超と報告されている(2013.12.30Journal of the American Chemical Society )。
そうすると、酸化チタンや酸化亜鉛がなくとも、あるいはない方が良いということにもなり議論を
整理する必要がでてきたというわけで、(薄膜型)有機/無機のハイブリット化合物系半導体太陽
電池というカテゴリーに分化される事態に直面したという、なんともやるせない思いが去来せぬも
のではないが、前述の光触媒やこの太陽電池を理論科学によるチューニング(電算機による構造設
計)による最適化の前に基礎研究に立ち返ってみる必要がある。そのことを見越して、わたし(た
ちは、いちはやく量子スケール電子デバイスあるいは量子スケール太陽電池(=光電変換素子)と
呼んでいたのだが、「4酸化3スズ」のように、変換効率が20%超えしてくる日も近いと期待でき
ると、タイピングしながら楽観的な思いに傾いている。
頑張ろう!ニッポン/頑張ろう!セカイ。^^;