●フラットライナーズの最新解析技術
知人と電話で奥様が、心筋梗塞で緊急医療中に一時心停止状態に陥ったものの事なきえて蘇
生し、いまはペースメーカ(artificial cardiac pacemaker)の内挿手術治療を受け自宅に戻ってき
ておられるということだった。彼女と相談し、早速のお見舞をさけ、ほとぼりが冷めたとこ
ろで改めておうかがいしようということになったが、電話をしていたときに、映画『フラッ
トランナーズ』のシーンが一瞬過ぎった。そんなことがあり、暫くしてNHKの『病の起源
第4集「心臓病 ~高性能ポンプの落とし穴~」』(2013.10.27)の再放送を見ることとな
り、何故、人類特有の心筋梗塞などの心臓の病に罹るのかを知ることとなった。
シリーズ「病の起源」第4集の概要はこうだ→世界保健機関WHOが発表した世界の死因
の第1位の病「心臓病」。日本でもこの30年間に発症率がおよそ3.5倍に増え、深刻な事態
となっている。心臓は、一生の間に30億回も拍動し、休むことなく全身に血液を送り続けて
いる臓器。その働きに異常をきたすことは命に関わる。そこで、なぜ心臓病になるのか。そ
の答えは、進化に隠されていて、2億2千万年前に誕生した哺乳類が、心臓の筋肉を強力に
し、その筋肉に血管を張り巡らせたことで、高い運動能力を手に入れ繁栄を勝ち取ったこと
に起因する。しかし人類は、7百万年前に独自の進化の道を歩み始めたことで、みずからの
心臓を翻弄させる事態を生み出した。まず直面したのは、直立二足歩行による重力との闘い
で、足に血液がたまりやすくなり、脳が血液不足になるのを防ぐために心臓は負担を強いら
れる。さらに、250万年前頃から始まる脳の巨大化は人類に高度な知性と文明化をもたらし
たが、一方で心臓の血管が詰まる心筋梗塞のタネを生み出す。脳の進化に関わったと考えら
れる「ある変化」が、皮肉にも心臓に張り巡らせた血管を痛めやすくする。進化の代償とし
て抱え込んでいた心臓病の宿命に、どう向き合い防いでいけばよいのか、進化を手掛かりにそ
の答えを探っていくという内容だ。
この番組にキーマテリアルとなるN-ルリコリルイノラミン酸とAPO4(ヒト血漿蛋白質
遺伝子) が紹介されていたが、これを突き止める解析分析技術の進歩の背景には毎度のご
とく”デジタル革命渦論”が横たわり原子数個の量子スケールレベル(数ナノメートル~20
ナノメートル)から分子スケール(~百ナノメートル)のナノテクノロジー進展、とりわけ
遺伝子解析技術、バイオインフォマティクス(生物情報科学)の進歩がある。まずは、心筋
梗塞の話。コレステロールにより血管が詰まり、心臓の筋肉が壊死する心筋梗塞は、ヒトが
特になりやすい病気(人類特有の病?)。ゴリラなどの類人猿の血中コレステロール値はヒ
トよりはるかに高いが、それでも血管にはコレステロールは溜まらず、心筋梗塞も見られな
いと原因解明。それが血管の詰まりを引き起こすとされているのがN-ルリコリルイノラミ
ン酸Gcという物質。これが心臓の血管に炎症を起こし、その個所からコレステロールが溜
まっていき、血管の詰まりを引き起こす。
Gcはヒトの細胞を炎症させる
この物質は、他の類人猿やほ乳類の細胞に存在するがヒトには存在しないものだが、遺伝子
解析からアジッド・バルキカルフォルニア大学サンディエゴ大教授(人類進化生物学)が、
ヒトにも存在していたいGcが凡そ270万年前に失っていたことを突き止める。そのメカニ
ズムはマラリア病原体とGcが結合することで発症するが、人類は生存戦略としてこのGc
を遺伝子から消滅させるが、Gcを喪失することで神経細胞の形成を抑制するGcがなくな
ることで他のほ乳類の脳と異なり、脳神経細胞を人類は脳を巨大化させることができたと考
えられている。やがて、食料生産革命によって安定した食料を得ることができた人類は、G
cを含んだ動物の肉も大量に食べるようになることで、一度は失ったGcを再び体内に取り
込み、それを異物として認識した免疫機能により血管に炎症が起こり、心筋梗塞の発症が増
えていくことになるという皮肉な結果をもたらすことなる。
そこで、APO4(ヒト血漿蛋白質遺伝子)が登場する。このAPO4遺伝子)はコレスト
ロールを効率的に吸収促進できる機能をもつ狩猟採集時代に獲得した遺伝子で、その時代は
人類は広範囲に行動することで食糧を獲得してきたがそれでも食糧不足状態に陥ることもし
ばしばあったがAPO4をもつことで生き延びることができたが、反面、過剰摂取になり心
臓病の発症を招いてしまったというわけだ。このように栄養の摂り過ぎが心臓病のリスク
を高める反面、逆に栄養が不足することで心臓病のリスクを高めるてしまい、妊婦の栄養
不足による胎児へ影響をもたらしたことも分かってきた。オランダのアムステルダム大学は、
第二次世界大戦下の食糧不足の中で産まれた人々を追跡調査。当時の人々は、一日にわずか
400~800キロカロリーと、必要な量の半分程度のカロリーしか摂取できていなかった。その
調査の結果、対象者は心臓病になる割合が2倍高かったほか、その後に健康的な食生活を送
っていても、心臓病になりやすいということを突き止めている。
心臓の細胞は胎児期のみ分裂し、その後増えることはない。このため、胎児期に充分な栄養
が与えられないと細胞の一部が死に、細胞が少ないままの状態で成長することになってしま
い、結果、心臓は早く消耗することになるという。胎児に充分な栄養が行き渡らないとき、
得られた栄養分は脳の形成のため、最優先に使われ心臓は後回しになってしまうが、胎児期
に心臓病のタネを植えつけることになる。ここでも、脳の巨大化が心臓に影響をもたらし、
謂わば、人類は脳の進化により翻弄される時代と解説しているが、これは意味深い話だ。
これまで安静にすることが前提だった心臓病の治療。しかし現在では、心拍数などを管理し
た上で適度な運動を行い、心臓の負担を軽減させるという治療が試みられている。足を動か
すことで血管が締め付けられ、血液を押し上げることで循環させることができるとか。その
意味で、足は「第2の心臓」といえるという。また、心臓に衝撃波を当てることで心臓をマ
ッサージし、新たな血管の形成につなげようという「低出力衝撃波治療」なる治療も試みら
れている。これまで国内で40人ほとが治療を受け、そのほとんどに改善が見られた。このよ
うに人類は、700万年前、2本の足で立ち上がり、直立歩行できるようになった人類の祖先。
そのことにより、両手は自由になり、食料を集めやすくなり、道具を使えるようにもなり、
重力の影響により血液は下半身に溜まりやすくなり、血液を全身に循環させに心臓には大き
な負担がかかるようになってしまう。立ち上がったとき、心拍数が上がることに加えて、全
身の血管をコントロールする交感神経が働きます。それにより血管が細く締まり、上半身へ
と血液が押し上げられます。その細く締まった状態の血管に血液を行き渡らせる。心臓はさ
らに大きな力を必要とするようになり、心臓の筋肉は疲弊し、そのことが心臓病のリスクを
高めることにもなって来た由来を平易に解説してくれている。
●メカニカルからバイオロジカルなペースメーカへ
ところで、心臓ペースメーカの技術は、ここにきて、さらに飛躍する様相を見せている。そ
の理由として、従来の機械式ペースメーカは(1)電池寿命や(2)自律神経応答の欠如の
課題があるが、これを生物学的ペースメーカに代替させようとする試みの基礎的研究が進み
その実用化のための事例研究が急速に進んでいることがその背景としてある。周囲の細胞と
電気的結合を作れる生物学的ペースメーカは、従来の機械式ペースメーカの欠点ある(3)
周囲の心臓への起電力の伝導性低下を起こさない。(4)無限に増殖できるES細胞(胚性幹
細胞)から大量に生物学的ペースメーカを取りだすことが可能である。(5)ヒトiPS細胞
からの作成が可能であることを特徴としている。
その事例として、久留一郎鳥取大学教授らのグループの「万能細胞由来ペースメーカ開発」
(2013.10.21)がある。胚性幹細胞やiPS細胞などの万能細胞が再生医療に用いられている
が、この細胞から電気を作ったり、動いたりする細胞を取り出す技術を開発し、脈が打たな
くなる病気には、心臓を刺激する電気を作る人工ペースメーカに替わる万能細胞であるヒト
ESならびにiPS細胞から電気を作る細胞を作製し、これを組み合わせて人工ペースメーカに
代わる生物学的ペースメーカと、さらに神経制御機能を搭載した多機能治療ディバイスに関
わる提案がされている。
※国際特許出願(PCT/JP2010/066952)/新規ペースメーカ細胞」WO 2011040469 A1
また、大阪大学大学院工学研究科の明石満教授、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の伊藤
浩教授らは、マウスのES細胞(胚性幹細胞)から心臓を拍動させるペースメーカー組織を
作製し、マウスで機能させることに成功したことを発表(2014.03.19)。患者由来のiPS
細胞(人工多能性幹細胞)由来の再生組織で機能すれば、徐脈性不整脈の治療で使う心臓ペ
ースメーカーの替わりに移植でき、拒絶反応などの課題を解決できる。今後、病気のモデル
マウスを使った移植実験を重ねるという。
尚、この研究成果は、心臓の洞結節部にあり、心臓拍動の刺激を起こすペースメーカー細胞
をマウスES細胞から作製。これを細胞接着性たんぱく質であるフィブロネクチンとゼラチ
ンの溶液に交互に浸す交互積層法を9回行い、厚さ10ナノメートルの薄膜を細胞表面に形
成。容器に詰めると薄膜を介し細胞が3次元的につながり組織になるというもの。厚さ50
マイクロメートルで1センチメートル角になった組織を正常なマウスの心臓洞結節に移植し、
マウスの拍動数は通常100程度だが、強心剤投与で200、心拍数を下げる阻害剤投与で
40程度と、正しく機能していることを確認。これまでの培養細胞を注入する方法では生着
することなく、通常の培養法では2次元的な細胞増殖しかできなかっもの。
ところで、肝心の映画ストーリというと、野心に満ちた医学生たちの、危険な死の実験が引
き起こす恐ろしい出来事を描くサスペンス。エグゼクティヴ・プロデューサーはスコット・
ルーディン、マイケル・ラックミルと脚本も兼ねるピーター・フィラルディ、製作はマイケ
ル・ダグラスとリック・ビーバー、監督は「ロストボーイ」のジョエル・シューマカー、撮
影はヤン・デ・ボン、音楽はジェームズ・ニュートン・ハワードが担当。出演はキーファー・
サザーランド、ジュリア・ロバーツほか。1990年の米国サスペンス映画。
●物語
シカゴの医大の学生ネルソン(キーファー・サザーランド)は死の壁の向こうを覗こうと、
自ら実験台になる計画を仲間に打ち明け、女子学生のレイチェル(ジュリア・ロバーツ)、
停学処分を受けているデヴィッド(ケヴィン・ベーコン)、プレイボーイのジョー(ウィリ
アム・ボールドウィン)、医学による人類創世を夢想するランディ(オリバー・プラット)
の4人の野心的な学生が協力することになった。大学の美術館に秘密裏に集まった彼らは人
工的にネルソンの心臓を停止させ、そして1分後に蘇生を試みた。死後の世界から戻ったネ
ルソンはそこで記憶の中の不思議なイメージを見たと語る。次にジョーが実験台になり、彼
は歪んだ女たちのイメージを見る。実験からしばらく経った後、2人を幻覚が襲う。ネルソ
ンが子供の頃木の上に追いつめて誤って殺してしまった少年ビリーが実体化して彼に傷を負
わせ、ジョーは恋人と一緒の時、過去に弄んだ女たちの姿をTV画面に見る。
しかしそんなものを信じない実証派のデヴィッドは自ら心臓停止状態(フラットライナーズ
)を3分50秒に引き延ばして実験に臨むが、彼もまた幼い頃いじめた黒人少女ウィニーの幻
影を見る。そして最後に実験を受けたレイチェルは、戦争から帰り麻薬を射っている所を彼
女に見られたことで自殺した父の姿を目撃する。彼らは死後の世界から潜在的な罪の意識を
蘇らせてしまったのだ。デビットは成人したウィニーを訪ね謝ることで、レイチェルは幻影
の中の父に許しを乞うことで罪の意識から解放されるが、ネルソンはビリーの墓石に祈るこ
とでは許されず、1人で再び実験台に上り死界に戻ることを決意する。そこでネルソンはつ
いにビリーが微笑むのを見る。その頃ネルソンの行動に気づいたデヴィッドらは急行し蘇生
を始めていた。死後の世界から目覚め仲間たちの顔を目にしたネルソンは自分がついに許さ
れたことを知るのだった。
尚、この映画は劇場ではなくDVDで鑑賞している。
春がそこまでやってきている。近くの白梅が見事だったのでデジカメする。断念だが、電線
通信線が邪魔だ!また、裏庭は彼女が白山神社から移植した蕗の薹(フキノトウ)が咲きか
けて"春の皿には苦味を盛れ"と詩的な言葉を発している。
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