●種の起源 目次
第1章 飼育栽培下における変異
第2章 自然条件下での変異
第3章 生存闘争
第4章 自然淘汰
第5章 変異の法則
第6章 学説の難題
第7章 本能
第8章 雑種形成
第9章 地質学的証拠の不完全さについて
第10章 生物の地質学的変遷について
第11章 地理的分布
第12章 地理的分布承前
第13章 生物相互の類縁性、形態学、発生学、痕跡器官
第14章 要約と結論
チャールズ・ダーウィンは、『種の起源』の最後で「最初にいくつかの力が、複数の、または
ひとつの形態に吹き込まれ、この惑星が、定められた重力の法則にしたがって何回転もする間
に、はじめはごくごく単純だったものから、もっとも美しく、もっとも素晴らしいものまでが
進化し、今でも進化しているのだという、この生命観には、なんとも壮大なものがある」と述
べている。こんなことを書き出したのは『シーラカンスゲノム中に隠されていた脊椎動物陸上
化のカギ』(Coelacanth genomes reveal signatures for evoIuticnary transition from water to lard)とい
う技術論文を読み、進化とは?との考えが頭から離れないためで、回らない頭を回してみたと
いうわけだ。この技報を要約記載するとつぎのようになる。
このシーラカンスは、化石記録上では古くからその存在が知られ、進化学的に重要なグループ
として注目されていたが、新生代からの地層にはシーラカンスの化石が出土しないことから、
6500万年前における生物の大量絶滅時にシーラカンスも絶滅してしまったものと考えられてき
た。そのため、1938年、南アフリカのイーストロンドンで、現存個体が発見された時は、一大セ
ンセーションとなった。特に生物学者は、化石という限定された情報だけでなく、実際に生き
た個体を用いて進化の謎の解明の絶好の機会となり、近年では"デジタル革命渦論"の下、次世
代シーケンサーの進展により、新規の生物種であっても比較的安価にその全ゲノムDNAの配
列決定が可能となる。
●シーラカンスとは
シーラカンスは水中に生息する魚で、分類学的にはカエルや哺乳類に代表される陸上動物に近
縁な肉鰭(にくき)類に属する。シーラカンスの鰭(ひれ)は、一般的な魚の鰭(条鰭という)
とは異なり、内部に丈夫な骨格と筋肉が備わり、シーラカンスにおける肉鰭は、ちょうど鰭と
四肢の中間段階を示し、このグループが魚と陸上動物をつなぐ進化上の「ミッシングリンク」
であると考えられ、現存するシーラカンスの形態的特徴は数億年も前の化石種とほとんど変化
していないことから「生きた化石」とも呼ばれてきた。つまり、シーラカンスは「どのように
して脊椎動物が陸上化を達成したか?」「なぜ形態進化のスピードが生物種ごとに異なるのか」
といった生物学的に極めて重要な問題を解決するための鍵となるグループである。ただ、シー
ラカンスは極めて希少であり、ワシントン条約の第1類に指定され、例え研究目的であっても
その捕獲は許可されず、現存のシーラカンス個体を用いた研究を行うことができるのは、アフリ
カ諸国やインドネシアの研究者と親交を持つ研究者に限られている。
●シーラカンスゲノムの決定
シーラカンスゲノムの新規決定は、タンザニア沖で捕獲された母親シーラカンスの胎内で見つ
かった稚魚(下参考図)の筋肉から抽出したDNAを用い、イルミナ社製 HiSeq2000により、
総塩基数として約800 Gbp(ギガ塩基対の略) という膨大な配列データを集めデータを東京工
大の伊藤武彦研究室で開発されたPLATANUSを用いてアッセンブルした。アッセンブルの結果、
シーラカンスのゲノムサイズは2.74 Gbpと推定、一般的な魚種(1Gbp)と比較すると3倍ほど大
きく、むしろヒトを含めた哺乳類(3 Gbp)に近いという。新規に決定されたシーラカンスの概要
配列をリファレンスとして、タンザニア産2個体、コモロ産1個体、インドネシア産1個体の
ゲノム配列をリシーケンスすることで、計5体のシーラカンスについて全ゲノム配列を決定す
ることに成功。これらのデータをすでにゲノム配列を解読したモデル生物と比較し、脊椎動物
の陸上化イベントに関する興味深い知見を得ている。
●極めて遅いDNA進化速度
これらの試料の核DNAにおける変異サイトから遺伝的分化度の算出によれば、わずか0.18%
に過ぎず、先行研究のミトコンドリア全長配列の解析や地質学的な証拠から、タンザニヤとイ
ンドネシア産の2種の分岐は、今からおよそ3500万年前と考えられていることを考慮するとヘ
シーラカンスの核DNAの置換速度は極めて遅いことが予想される。例えば、今から600万年前
に分岐したヒトとチンパンジー間の遺伝的多様度は約1.4%であることを考えると、単純計算し
てシーラカンスの核DNAの置換速度はヒト・チンパンジーの40倍以上も遅い。これは、シー
ラカンスの形態的変化が極めて遅いのは、このDNAの置換速度が遅いことに起因しているか
もしれないと推定する。つまり、絶対的なDNA変異吊Jが極度に少なければ、それだけ形態形
成をつかさどる遺伝子やエンハンサー領域への変異も減ると考えられ、形態的変化も制限され
ると予想できるが、シーラカンスと同様に古くから形態が変化していないムカシトカゲは、D
NA置換速度が近縁種と比べて、むしろ速いと報告されているため、この問題は研究継続対象
となるという。
●シーラカンス・ゲノムは陸上化につながる遺伝子?
脊椎動物の陸上化に関する遺伝的基盤の解明を目指し、水中から陸上への進出に向けて革新的
な進化が必要であったと予想される嗅覚器官と四肢に着目して、その関連遺伝子の網羅的な探
索をシーラカンスゲノムで行い、魚類は水中に生息しているため、その嗅上皮に水溶性の化学
物質を受容するが、陸上動物は空気中に存在する揮発性の化学物質を受容する。先行研究では、
魚類と陸上動物ではフェロモン受容体VIR遺伝子のレパートリーが大きく異なる。陸上動物
のゲノム中には魚類聖のVIR遺伝子が存在しない代わりに、特定のグループのVIR遺伝子
(陸上動物型VIRと名付けた)がコピー数を増やしていたため、この特定のVIR遺伝子の
増幅が陸上化に伴うリガンドの変化に対応していると考えられてきた。このシーラカンスゲノ
ム中に存在するVIR遺伝子を網羅的探索したところ、ゲノム中には魚類型VIRがすべて存
在しているだけでなく、さらに陸上動物型VIR遺伝子もコピー数を増やしていたことがわか
った(下図参考)。また、四肢形成に必須であることが実験的に示されているいくつかのエン
ハンサー領域を、陸上動物、シーラカンス、魚類で比較したところ、陸上動物とシーラカンス
の間においてDNAレベルで配列が保存されているが、魚類においては保存されてないものが
数多く観察され、陸上動物の四肢形成に関連しているエンハンサーがシーラカンスゲノム中に
も存在する。
このように、岡田典弘東工大名誉教授らの研究グループは、シーラカンスゲノム中に存在する
陸上型の遺伝子は、そもそもは陸上化には関係なく肉鰭(にくき)類の祖先が水中における適
応のために獲得したものであり、それが陸上化の際に別の目的に転用されたのではないかと予
想する。この現象は進化学的には前適応もしくはco-optionと呼ばれ、脊椎動物の陸上化に代表
されるダイナミックな進化を遂げる際にはゲノムレベルでもこのような現象が一般的に起きて
いるのではないだろうか?と推論している。
●クジラは、古代牛だった?
さて、以上の研究成果を踏まえ、話は、『種の起源』に戻る。チャールズ・ダーウィンは、ク
ジラやイルカの祖先は陸生哺乳類だったのだが、祖先が徐々に海生の動物へと進化していった
と考えたが、当時は、その変化途中の化石は未発見であり、発見されるにはずいぶん時間がか
かっている。1979年、ダーウィンの死後1世紀ほど経って、ミシガン大学の古生物学者、フィ
リップ・ジンジャリッチが,パキスタンで、5000万年前のクジラの頭骨を発掘。そのクジラは
陸地の生活に適応しているかのようだった(化石が見つかったのは海底ではなく、陸で堆積し
た地層の中であり、頭骨も、イルカというよりはイヌに近かったから)。今日のクジラにしか
ない特徴が、その化石には見られたためジンジャリッチはその動物がクジラと近縁だとした。
その特徴には、耳の周囲を取り巻く独特の骨壁である。そのクジラは、パキトゥス(ラテン語
でパキスタンのクジラという意味)と命名。13年後、尾は巨大で,肢は太くて短く,後肢の足
はまるで櫂(かい)のような形で、頭部が長く、ワニのようだが、歯の形は、哺乳類でのみ見
られる特徴をもち,その歯はパキケトゥスの化石を発見し、アンブロケトゥス(歩くクジラ)
と名づけた。1990年代半ばに入ると,遺伝学者がクジラのDNA 配列を決め,他種の遺伝子との
比較検討を始め、クジラが哺乳類に似たのた遺伝子をもっていたのだ。すべてのクジラ類は、
偶蹄(ぐうてい)類として知られる陸生哺乳類のⅠグループだけがもつ遺伝子マーカーをもっ
ていることがわかった。偶蹄類とは,ラクダ、ウシ、カバ、ヤギなどのグループである。
では、偶蹄類だったクジラの祖先は、いったいどのようにし海に入り、四肢を退化させていっ
たのだろうか? この疑問を解明するヒントを得るために、2007年に、パキケトゥスや他のク
ジラ類ともとも近縁な偶蹄類の祖先が、4700 万年前に生息していたインドヒウスであるとす
る論文が公表される。その特徴的な耳の骨など、インドヒウスの骨格の中に、クジラとのつな
がりを示す一連の形態をもつ。インドヒウスは、アフリカに生息するネズミジカとそっくりで、
小さい細い四肢をもつ生き物。インドヒウスやパキケトゥスは、クジラの祖先がまだ 本の長
い脚をもっていたころに進化。彼らは,水泳が得意だったかもしれないが、彼らの祖先たちが
分岐したのち、水中での生活によりよく適応した新種のクジラが誕生。およそ 4900万年前に、
現在のパキスタンあたりの海岸に生息していたアンブロケトゥスは、四肢が短く、巨大な足を
もっていた。おそらく、大きな足で水を蹴けり、尾を曲げアシカのように泳いでいたのだろう。
およそ同時期に生息していたロドケトゥスは、アザラシに似て、陸上ではからだを引きずるこ
としかできなかったが、これまでに陸生哺乳類から現代のクジラやイルカへと変化していく途
中の化石種を30種以上も発見している。
さて、4000万年前のクジラの遺伝子を解析することは、今後も不可能に近いとされているが、
遺伝子はは数十万年で壊れてしまうが、現生クジラを調べれば、どのような遺伝的変化が、陸
生四足哺乳類を魚のようなクジラへと変えたのか研究できる。重要な進化的変遷的変化のいく
つかは、胚の中で遺伝子の活動のタイミングを変化させる。ヒトや他の陸生脊椎動物の胚では
四肢発生を始めるとき、ある特定の遺伝子のセットが活性化する。およそ 4000 万年前、完全
に水中で暮らせる種が進化した。そのなかのひとつの種であるバシロサウルスは、15メートル
もの長さにまで成長する。クジラやイルカの起源を知る手がかりは,化石形態からだけでなく、
化石の中にある個々の原子からも得られる。現生のクジラやイルカは海水を飲むことができる
が、陸生の哺乳類は淡水しか飲むことができない。海水にも淡水にも酸素原子が含まれている
が、どの酸素原子も8個の陽子をもち,また,その多くは中性子も8個もっが、地球には2つ
余分な中性子をもつ酸素原子ごく少量存在し、海水は淡水と比べ中性子を10個もつ酸素原子の
割合が多いので、陸生哺乳類と比べより多くの重い酸素が含まれその存在量を計測し推測でき
る。
それにしても、なぜ哺乳を含む脊椎動物が海進し海や湖沼に生息し、また、魚類などが陸進し
陸上化したのだろうか?そこには大きな環境変動が関わっていることが考えられる。生息地が
壊滅的に破壊されるような状況、温度変動、あるいは気層・液層の構成成分の劇的変化、さら
に、プレート変動などによる汀線の変動などが考えられるわけだが、今夜はそこまで頭が回ら
ない。そこで思いついたのだが、シー・シェパードとかの反捕鯨活動。なんだ、やはり牛肉食
文化人種の振りかざす正義なんて、ベジタリアンの言い分などを含めてちゃんとした?議論を
やらないとダメじゃないか、いい加減なものだねぇ~と思ったり、そういえばバッファローや
クジラを乱獲したのは欧米ではないか(そのおかげで日本は開国することになるが)、その米
国は石油採掘で一変し、いまはシェールガス採掘で一変するのだが、地下水は化学物質で汚染
されるし、二酸化炭素は野放しで地球温暖化などは後手だし、原子力発電は使い済み核燃料の
廃棄方法もままならないしねぇ~~ ^^;。