ドラびでお×月見ル君想フ presents “DORA・PIKA・DON・TICA”
出演:灰野敬二+テニスコーツ/Doraptron(ドラびでお+伊東篤宏)
実はこの日はロリータ18号の"石坂マサヨ40歳記念ワンマン・ライヴ"を予約していたが、後日灰野さんのライヴがあることを知り、どちらヘ行こうか迷っている、とツイッターで呟いた。以前も他のライヴと灰野さんが被っていて灰野さんに行かず後悔したことがあったので、マサヨさんには申し訳ないが月見ル~に行くことにした。
開演を待って並んでいると灰野さんがスタッフと外から帰ってきて私を見て「あれ、こっちに来たんだ」と驚かれた。ツイート、チェックされてるな~。月見ル~は3年ぶり。灰野さんはサンヘドリンで5年前に観て以来。天井が高くて音響もよく好きな小屋だ。名前の通りステージのバック・スクリーンに満月の映像が映されているのが特徴。マッタリしたリラックス出来る空間は月並みな表現だがまさに"都会のオアシス"。1Fフロアに客が自ら椅子を並べて座る。テニスコーツ人気なのか灰野さんとの初セッション目当なのか満員の入り。2Fの物販テーブルには一楽氏と伊藤氏が座ってCDやDVDを並べている。先週福島のノイズ温泉で会ったので挨拶する。
ドラびでお=一楽儀光氏のソロでスタート。自ら開発した新楽器DORAnomeを使って爆音ハードコアテクノイズとビデオ映像をシンクロさせる。今のDORAnomeは第2号で、もうすぐ第3号が完成するそうだ。市販する可能性もあるという。得意のアニメ・ネタ=「サザエさん」「アルプスの少女ハイジ」「けいおん」と有名人の不祥事連続映像で、現代社会を痛烈に皮肉る新感覚のエンターテインメントはいつ観ても楽しい。
続いて伊東篤宏氏のソロ。最前列で観たので眩しくて目を開けていられない。強烈な蛍光灯のハレーションとハーシュノイズが刺激的。
次に二人のユニットDoraptron。紹介には"目にも耳にも壊滅的打撃を与える極悪非道言語道断原爆DUO"となっている。ノイズ温泉の時は音響設備は急拵えだったのでちゃんとしたPAで聴くとスケールの大きな爆裂パフォーマンスに興奮する。電子雑音楽器2台のアンサンブルは見事という他無い。以上のべ60分のステージ。
後半は灰野さんのハーディガーディ・ソロでスタート。バースデイライヴやオールナイトの時に使われるくらいでソロでハーディガーディ演奏を観るのは久々。ステージ左上に煌煌と輝く満月の下に黒いマントの灰野さんの姿が似合いすぎる。2003年の不失者の法政大学学生会館の7時間ライヴで初めて60分に亘るハーディガーディ演奏を聴いた時はダリの絵のような奇怪な悪夢にうなされたものだが、慣れて来るとこんなに繊細でマジカルなサウンドは他に無いことが判る。電子楽器のような音を出す掟破りの灰野さんの奏法に深いリバーブをかけたヴォーカルが乗るとゾクゾクした戦慄が背中を走る。太陽ならぬ「月と戦慄」とタイトルしたい30分だった。
最後にお待ちかね、テニスコーツ=さや嬢(vo.key.ピアニカ)+植野隆司氏(g)と灰野さんの初共演。とは言っても10年前にスタジオ・セッションしたことがあるらしいし、植野氏は何度も灰野さんのライヴで見かけるので驚くような組み合わせではない。テニスコーツを最初に観たのは10年くらい前だろうか。その時は植野氏はサックスを吹いていた覚えがある。以来何度か彼らのライヴに接する機会があった。印象的だったのはジャド・フェアの日本公演と大友良英one day orchestraの教会ライヴである。天真爛漫無邪気な彼らは、強烈な個性派アーティストとの共演でも揺るぎがない。裸足でアコギとピアニカでPAなしでも演奏してしまうフットワークの軽さが魅力であるが、私はそのアマチュアっぽさが実はちょっと苦手である。かつて彼らもメンバーだったマヘルくらい徹底して下手ならいいのだが、テニスコーツは上手過ぎて笑えないのだ。そんな彼らと灰野さんのセッションがどうなるのかは蓋を開けてみないと判らない。
左からアコギを抱えた植野氏、ミニキーボードを乗せたテーブルを前にしたさや嬢、椅子に座った灰野さん。ドラムがセットされている。最初は灰野さんはケルティックハープ、さや嬢はピアニカで微弱音のアコースティック
・セッション。2曲目は灰野さんは鉄琴を叩きテニスコーツの歌と演奏に重ねる。テニスコーツは即興ユニットじゃないので作曲された曲を演奏、そこに灰野さんが絡むスタイルの共演だった。発振器に繋げたミニスピーカーをスネアや床に当てて音を変化させたり、爆音ドラム・プレイを聴かせたり、SGで静かなフレーズを弾いたり、灰野さんは伴奏に徹する。時にはアンプのヴォリュームをゼロにして生音でギターをかき鳴らす。灰野さんの側にテニスコーツの二人が寄り添ってほのぼのした光景。歌詞を書いた紙を見ながら灰野さんも即興でヴォーカルを聴かせる。テニスコーツの無垢な世界を壊さず灰野さんらしさを発揮する流石の演奏。アンコールではスタッフがわざわざ譜面台を用意してくれたが、テニスコーツ側の歌詞カードが無くてムダに。譜面台を指差して「ジョン・ケージ」と言って笑わせる灰野さん。アンコール曲では「たましい」という言葉がキーワードで灰野さんも二人と一緒に「た・ま・し・い!」とシャウトする。テニスコーツと灰野さんの世界がシンクロした瞬間だった。55分のステージ。
終演後楽屋で挨拶。私の記憶では「うたもの」との共演は2009年の早川義夫さん以来。「俺はうたものもよく聴くからお呼びがかかればいつでもやるけど来ないんだよね~」。「今日はアンプのヴォリュームは1でエフェクターもチューナーだけ」。テニスコーツの中味を伴った独特の明るさが好きだとのこと。
ホントに貴重な演奏が聴けたライヴだった。やはり来て良かった。マサヨさんゴメン!
[9/5追記]
植野氏のブログでテニスコーツがこの日国立近代美術館での大友良英one day ensemblesとダブルブッキングだったことを知った。てんてこ舞いの一日の顛末が面白いので是非お読みください。
灰野さん
明るい曲も
OKです
映画「ドキュメント灰野敬二」が9/1から吉祥寺バウスシアターでレイトショー公開が始まった。また観に行こうかな。